恋愛(ピュア)
完
伊桜 礼菜/著

- 作品番号
- 1755767
- 最終更新
- 2025/07/15
- 総文字数
- 80,815
- ページ数
- 206ページ
- ステータス
- 完結
- PV数
- 29,363
- いいね数
- 11
――かつて、夢のような時代があった。
帝都の男爵家に生まれた若宮志野子(わかみや・しのこ)は、
令嬢として雑誌にたびたび取り上げられ、少女たちの憧れを一身に集めていた。
英語をたしなみ、洋装も和装も美しく着こなす才色兼備の令嬢。
だが、その輝きの裏で、家庭は崩れかけていた――。
父の突然の出奔、母の心の離反。
志野子は家名を守るために政略結婚を受け入れるも、戦後に離縁。
華族制度が廃止され、若宮家は屋敷も土地も手放し、
志野子は長屋で裁縫を生業に静かに暮らし始める。
そんなある日、消息不明だった母がふいに現れ、
「再縁談」を持ちかけてくる。
その相手こそ、志野子の令嬢教育時代に香道を教えていた人物――
年上の香道家、千原 惟道(ちはら・これみち)だった。
未亡人となった彼は、表立った家元ではなく、
静かに香を伝える“人としての誠実さ”を内に秘めていた。
形式から始まった再出発の同居生活は、
お茶を淹れる手、ふと交わす言葉、静かな雨の午後――
やがて、慎ましくも確かな想いをはぐくみ、
ふたりは本当の意味で“夫婦”になってゆく。
戦後という時代の傷を抱えたふたりが、
春のぬくもりのような日々の中で、
“わたしらしく生きる”と“あなたと生きる”を重ね合わせてゆく――。
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