炭を組む作法には、意味がある。
主炭を据え、細炭を挟み、空気の通り道を作る。
その隙間に香炉の息吹が宿り、香りはじわりと花開く。
「火を扱うのに、“静けさ”が要るのは不思議ですね」
志野子がぽつりとこぼすと、惟道は香合から炭を取り出しながら微笑んだ。
「火は、言葉より正直ですから。急けば、煙になる。慎重すぎれば、熱が通らない。……まるで人の心のようです」
「……それでは、私の心は、いま煙になっているかしら」
「いいえ。いまはちょうど、香が立ち始めたところです」
ふと目が合い、志野子の指がぴくりと震える。
彼の目の中に、ほんの少し“熱”があった。それが火のせいか、彼自身のせいか、志野子には分からなかった。



