箱入り娘は無感情ボディーガードに護られたい


「でも、本当に楽しみだなぁ」

 新那は弾む息のまま、大きく開かれた窓の向こうへと目を向けた。
 春の夕暮れが、東京の街並みを淡い橙色と薄紫のグラデーションに染め上げている。
 窓から見下ろす景色は、いつだって同じだ。
 手入れの行き届いた広い芝生の庭。
 敷地の境界線をきっちりと主張する重厚な御影石の塀。
 そして、その向こうに広がる、どこか遠くに見えていた見慣れた街並み。
 だけど、明日からは違う。
 明日からは、あの塀の向こう側が新那の本当の居場所になるのだ。

(明日からは、高校生……!)

 胸の奥で、カチリと新しい季節のスイッチが入るような音がした。
 まだ少し糊の効いた硬い白いシャツ。袖を通したばかりのブレザーからは、新品のウール特有の匂いがする。
 新しい制服。
 まだ誰も座っていない、木の匂いがする新しい教室。
 これから出会う、名前も知らない新しい友達。
 そして、教科書のページを捲るたびに色付いていく、新しい毎日。
 考えるだけで、心臓がトクトクと不規則なビートを刻み、胸が高鳴るのを止められなかった。

「いっぱい、友達作るんだー! 女の子の友達も、男の子の友達も、皆ねっ!」

 誰もいない空間に向けて宣言するように呟くと、自然と頬が緩んでしまう。

「それでね、お昼休みになったら机をくっつけて、皆でお弁当を食べるの。購買の焼きそばパンを奪い合ったりしてさ。放課後はちょっとだけ寄り道して、駅前のカフェで新作のフラペチーノを頼んだり、カラオケに行ったりして……」

 新那は自分の指を一本ずつ折り曲げながら、これまで何度も頭の中でシミュレーションしてきた「普通の高校生の日常」を語り尽くしていく。

「あ、部活もたくさん見て回りたいな。運動部はちょっと自信ないけど、写真部とか軽音部とか、楽しそう。それに秋には文化祭とか体育祭もあるんでしょ? クラスでお揃いのTシャツを作ったりしてさ!」

 言葉にすればするほど、憧れは泉のように湧き出てきて尽きることがない。
 小学校の半ば、父親の会社が急成長を遂げて以来、新那の生活環境は一変した。
 安全のため、そして英才教育のためという名目で、中学校の三年間は学校へ通うことを許されず、この邸宅の中で一流の家庭教師達とだけ向き合う日々だった。