君の手が動く限り、俺は隣にいたいから

 


 四月の始まりというのは、肉体的にも精神的にも負荷が掛かる。
 たった二週間家に引きこもっていただけで、満員電車で酔ってしまうのだから。

「うぇ……」

 改札を抜けて人の波から外れる。壁際に寄って、深く項垂れた。

(くっそ。電車通学しないで済む高校にすりゃあ良かった)

 家から最寄り駅まで歩いて十五分。そこから学校の最寄りまで快速電車で四十五分。
 トータル一時間近く掛けて高校に通うことになる。
 ただ、偏差値が低くて楽そうだからという理由で選んだ学校。まさか、学力ではなく通学で後悔するなんて。

(まだ四月だぞ? なんでこんなに暑いんだよ)

 入学式を終え、始業式を終え、今日から通常授業が始まる。
 校則で五月いっぱいまでブレザーの着用が義務化されているから、気温関係なく着ていなければならない。
 動きづらい、暑い、重い。そんな文句ばかりが、頭の中で浮かんでは消えた。
 ゆっくりと首を動かして、空を見上げる。
 皮肉なばかりの青空が視界一面に広がっていた。

「やっばっ……! 遅刻するっ!」

 握っていたスマホをブレザーのポケットに突っ込み、学校への道を走り出した。
 気が付けば、駅前に溜まっていた同じ学校の学生の姿が見当たらない。
 遅刻へのカウントダウンが始まった。

「十。九。八……」
「待ってーーーー!」
「三。二。一」

 校門が無慈悲に閉じられる前、一歩大きく踏み出すと飛び上がる。
 空中で竹刀を構えた男性教師を目が合った。スローモーションになる光景、耳の中ではチャイムが鳴り響いていて。

「セーーーーーーフ」
「アウト。三日連続遅刻だ、藤代(ふじしろ)

 着地した時、不意に視界に影が掛かった。

「朝礼までに自席に座っていなければ、学校にいようとも遅刻だ。入学早々遅刻する馬鹿がいたかと思えば、始業式と続けて……」
「あーあー! 羽馬せんってば声が大きいって!」
「こら。話はまだ終わってないぞ。って、先に職員室で遅刻カードを!」

 三日連続遅刻なんて、学校に来ているだけマシだろと心の中で悪態をつく。
 入学式には遅刻して不参加、始業式にも遅刻して午後から登校。
 そして授業始めの今日、ほんの少し成長して朝礼開始時間に校門を潜った。
 時間にルーズ。
 教師に対して反抗心を剥き出しにする問題児というのが、この藤代凌(ふじしろりょう)という少年だった。