碧南は深く俯き、小さくしゃがみ込んだまま、膝の上で握り締めた拳を震わせた。
彼女の細い肩が、感情の決壊を堪えるようにして激しく上下している。
「……ずるいなぁ、君は」
やっとの思いで絞り出されたのは、ひどく掠れた声だった。
「何がだよ」
「そんなこと、そんな顔で言われたらさ……。私だって、本当のこと、全部言わなきゃいけなくなるじゃん……っ」
碧南は無理に笑おうとした。けれど、その繊細な笑みは、目尻から溢れ出た大粒の涙によって痛々しく歪んでいた。
凌は何も言わず、ただ彼女の告白を待った。
碧南は涙を拭うことすら忘れ、ゆっくりと、視線をあの高すぎる空へと向けた。
「……怖かった」
震える声で、彼女は人生で初めての弱音を吐き出した。
「ずっと、ずっと、生きた心地がしないくらい、怖かったんだ……っ」
握りしめた指先が、白くなるほどの力で小さく震え続ける。
「私の右手が、少しずつ動かなくなっていくのが……。大好きな絵が、二度と描けなくなっていくのが……。そして、いつか誰からも、私の存在を忘れ去られてしまうのが……」
ぽたり、ぽたりと、堰を切った涙が彼女のコートに黒い染みを作っていく。
「私にはね、凌……絵しかなかったから。絵を描くことだけが、私がここにいていいっていう、唯一の証明だったから……!」
屋上でも、夕暮れの部室でも、病室の白い天井の下でも、これまで誰一人として見せることのなかった、天才画家の本物の血を吐くような本音。
「だから、澄朱華先輩が自ら命を絶ったって聞いたとき……私、少しだけ先輩の気持ちが分かっちゃったんだ」
碧南は、目の前の冷たい墓石を見つめる。
「指先から色彩が失われていくあの苦しみが。目の前が真っ暗になるような絶望が。何も描けなくなった自分には、生きている価値なんてないんじゃないかっていう恐怖が……。いつか、私も先輩と全く同じ結末を辿るんじゃないかって、毎日、夜が来るのが怖くて仕方がなかった……!」
冬の張り詰めた空気が、痛いほどに静まり返っていた。
彼女の流す涙の熱だけが、その空間で唯一の生気のようだった。
「でもね」
碧南は、水分を含んだ瞳で、真っ直ぐに凌を見上げた。涙で滲んだその視線の奥には、確かな熱が灯っている。
「君が、私の目の前に現れてくれたから。君が、私の代わりにあの狂おしいほどの青空を描き続けてくれたから」
彼女は、泣きながら、それでも世界で一番誇らしそうに笑った。
「私、生まれて初めて、自分の描いてきたあの不器用な絵を心の底から好きになれたんだよ。私が命を削ってキャンバスに残してきたあの空は――ちゃんと、君に届いてたんだね」
それだけで、彼女にとってはもう十分に救いだった。
何年も何年も、孤独な闇の中で求め続けていた生きるための答えが、ようやく目の前の少年によって見つけられた気がしたのだ。
彼女の細い肩が、感情の決壊を堪えるようにして激しく上下している。
「……ずるいなぁ、君は」
やっとの思いで絞り出されたのは、ひどく掠れた声だった。
「何がだよ」
「そんなこと、そんな顔で言われたらさ……。私だって、本当のこと、全部言わなきゃいけなくなるじゃん……っ」
碧南は無理に笑おうとした。けれど、その繊細な笑みは、目尻から溢れ出た大粒の涙によって痛々しく歪んでいた。
凌は何も言わず、ただ彼女の告白を待った。
碧南は涙を拭うことすら忘れ、ゆっくりと、視線をあの高すぎる空へと向けた。
「……怖かった」
震える声で、彼女は人生で初めての弱音を吐き出した。
「ずっと、ずっと、生きた心地がしないくらい、怖かったんだ……っ」
握りしめた指先が、白くなるほどの力で小さく震え続ける。
「私の右手が、少しずつ動かなくなっていくのが……。大好きな絵が、二度と描けなくなっていくのが……。そして、いつか誰からも、私の存在を忘れ去られてしまうのが……」
ぽたり、ぽたりと、堰を切った涙が彼女のコートに黒い染みを作っていく。
「私にはね、凌……絵しかなかったから。絵を描くことだけが、私がここにいていいっていう、唯一の証明だったから……!」
屋上でも、夕暮れの部室でも、病室の白い天井の下でも、これまで誰一人として見せることのなかった、天才画家の本物の血を吐くような本音。
「だから、澄朱華先輩が自ら命を絶ったって聞いたとき……私、少しだけ先輩の気持ちが分かっちゃったんだ」
碧南は、目の前の冷たい墓石を見つめる。
「指先から色彩が失われていくあの苦しみが。目の前が真っ暗になるような絶望が。何も描けなくなった自分には、生きている価値なんてないんじゃないかっていう恐怖が……。いつか、私も先輩と全く同じ結末を辿るんじゃないかって、毎日、夜が来るのが怖くて仕方がなかった……!」
冬の張り詰めた空気が、痛いほどに静まり返っていた。
彼女の流す涙の熱だけが、その空間で唯一の生気のようだった。
「でもね」
碧南は、水分を含んだ瞳で、真っ直ぐに凌を見上げた。涙で滲んだその視線の奥には、確かな熱が灯っている。
「君が、私の目の前に現れてくれたから。君が、私の代わりにあの狂おしいほどの青空を描き続けてくれたから」
彼女は、泣きながら、それでも世界で一番誇らしそうに笑った。
「私、生まれて初めて、自分の描いてきたあの不器用な絵を心の底から好きになれたんだよ。私が命を削ってキャンバスに残してきたあの空は――ちゃんと、君に届いてたんだね」
それだけで、彼女にとってはもう十分に救いだった。
何年も何年も、孤独な闇の中で求め続けていた生きるための答えが、ようやく目の前の少年によって見つけられた気がしたのだ。



