「え………?」
周りから音という音が消えて、目の前が真っ白になる。
「き、もの……」
「詳しいことはほとんど教えてくれんかったけど、おばあちゃんにはお友達がおったみたいでねぇ。その子は大坂に行ってもうて、もう会えんかったらしい。これは、その子の隣にいつもおったっていう人がおばあちゃんに預けたんやと」
布に包まれていたのは、あの日、京の町で沖田達と一緒に買った桜色の着物。
たった一度だけしか着れず、その後は行方が分からなかった着物だ。
「それと、もう一つ」
折り畳まれた着物の襟の中から、長い紐のようなものを取り出す。
それを丁寧にまとめた祖母は、半ば強引に雪華の手の中にそれを置いた。
雪華はぎこちない動きで手の中を見る。
浅葱色の宝石がはめ込まれたネックレス。
「さ、よ」
「やっぱり、雪華ちゃんやったんやねぇ」
「え? なん、で」
「その髪留めと、この着物、よう似合いそうやねぇ」
そう言って笑った祖母の顔は、何処かもう二度と会えない親友に似ている気がした。
「……そう、だね」
約束、ちゃんと守ってくれていたようだ。雪は守れなかった約束を。
ずっと待たせてしまった。今まで、ずっと。
『待っとる。ずうっと待っとるよ』
小夜には多くのものを預けすぎてしまった。
きっと、この着物を彼女に預けたのはあの人。いつ何処で彼女に会いに行っていたのかは分からないけれど、彼もまたこの着物を大切にしていたのだ。
「もっと早うに言うたければよかったね」
一度失ったはずの宝物が、ここに揃っている。桜色の結い紐、着物、ネックレス。
あの動乱の世を雪という一人の少年が生きていた。そして、雪華という一人の少女が彼らと共に生きていた証拠がここに。
「おばあちゃん、言うてた」
「何、を?」
「“雪、やっと会えたね”」
一瞬、ほんの一瞬だけ彼女が目の前にいた気がした。
訛り方も、声も、笑顔も、全部彼女と同じ。
親友、小夜が目の前にいた。
「待たせて……ごめんね」
生きている内に会いに行けていれば良かった。けれど、それはもう叶わない。
それでも、約束は守れただろう。
こうしてもう一度会えたのだから。ずっと待っていてくれた彼女に会えたのだから。
優しく笑った祖母の笑顔は、きっと忘れることはないのだろう。



