想いと共に花と散る

 傷付いて、その傷を癒やしてきたからこそ気付いたことがあるのだ。

「土方さんに、言いたことがあるの」

 言わなければならないと思ったのはずっと昔なのに、結局、こうして言葉にするのは今になってしまった。
 過去のことを今更思い返したとて、何になるわけでもない。
 それでも、言いたかった。言葉にして伝えたかった。

「助けてくれて、ありがとう」

 死のうとしていた愚かな少女を。
 居場所のなかった孤独な少女を。
 愛を知らなかった無知な少女を。
 助けたのは紛れもない土方達だった。彼らが雪という一人の人間を生かしたのだ。
 居場所を与えてくれたのも、生きる理由を教えてくれたのも、生きたいと思わせてくれたのも。
 全部、彼らに出会ったから思えたのだ。

「今も好き。皆でいたあの頃が、あの場所が」
「……ああ」
「皆でご飯食べて……稽古、して……京の町、を、歩いて」
「ああ」
「雪って、皆が呼んでくれた。私、大好きっ」

 もう二度と、あの幸せだった時間は帰ってこない。
 けれど、思い出だけは消えずに残り続けていた。記憶に深く刻まれて、今もこれから先も残り続ける。

「土方さん、私……私ね」

 なんでだろう。なんだか無性に寒くなってきた。
 身動きが取れないくらい強く押さえつけられていたはずなのに、やけにすんなりと首が動かせる。

「好き。土方さんのこと、好きなの」

 なんで置いて行っちゃうの。なんで置いて行っちゃったの。

「だから、行かないでよ……」

 大切だと思うなら、愛おしいと想うのなら、手放したら駄目だ。
 だって、近藤さんが言っていた。
 
 ───生きろ、って。

 最後まで抗って、生きろって。

「っあ……ああ………うああ」

 どれだけ強く手を握り締めても、その手が握り返してくれることはなかった。
 静かに閉じられた目が開くこともない。もう見てくれない。

「行かないで……行かない、で」

 これがあるべき歴史なのなら、なんて残酷なのだろう。
 やっと想いを伝えられたのに。やっと想いを知ることができたのに。
 それ以上何もできないなんて、酷すぎる。酷すぎるよ、神様。

「土方さん」

 最後まで戦った。抗ったのだ、彼は。
 ならば、その威厳を保たねばならない。雪にはしなければならないことがある。
 きっとこの刀も手放さなければならないのだろう。刀だけでなく、結い紐も、懐中時計も。
 かつての仲間が残した首巻きとバンダナを手放したように。
 もう二度と目覚めない彼の左腰に提げられた刀を抜き取り、高々と掲げた。
 柄に手を掛け、ゆっくりと引き抜く。

 銘 兼定

 見たことのある刀だと思っていた。何処で見たのかはずっと思い出せなかったけれど。
 今になって気づく。この刀は、雪華がこの時代に迷い込むきっかけを斬り開いた刀なのだ。

「私も、愛しています」

 そっと首筋に刀を当てる。かつて浪士によって傷つけられた場所と同じ所に。
 怖くはない。手も刀も震えていない。
 彼らがいる場所に行くために、静かに、刀を滑らせた―――。