想いと共に花と散る

 関係なんて思っていたよりもずっと小さなものだったのだ。
 表面だけが大きく膨らんで、中身は小さいまま。風船の中に石を入れて膨らませるのと同じだ。
 こうして手を繋いだだけなのに、また元通りになってしまうのだから。

「なんで、置いて行ったの!? なんで……いきなり、あんなことしたの」

 嫌いだと遠ざけられるよりも、中途半端な優しさを向けられる方が何百倍も辛い。
 隣りにいると約束したのは、嘘ではなかったはずだ。

「……大切なんだよ。お前が、何よりも……大切で、愛おしいんだ」

 伸ばされた血塗れの手が頬に触れる。割れ物を扱うように、撫でるその手つきは優しい。
 涙で歪んだ視界はほどんど何も見えなかった。
 目の前に土方がいるはずなのに、桜の木の幹と彼の身体が同化して見える。

「好きって言えば、伝わるか?」
「う、あ……」
「俺はな、世帯を持つなら……てめぇとがいい。いや、雪じゃねぇと無理だ」

 頬に触れていた手が後頭部に回る。
 そして、そのまま引き寄せるように抱き締められた。

「愛しちまった。お前のこと」

 苦手だと思っていたはずだった。怖いと思っていたはずだった。
 月を味方につけて立っている様は、月下の鬼そのもので。
 こういう人がたくさんの人を殺して、どんどん先に進んで歴史を作っていくのだと思った。
 敵にも味方にもしたくないような人だった。できれば関わりたくないと思っていたはずだった。

「死のうとしてたお前を……死なせたく、ねぇと………腹立つあの顔を…笑顔、に……したかった」

 忘れたことなど一度もなかった。

『俺はなぁ、てめぇみたいな顔をしてる奴が一番嫌いなんだ』

 死のうとした所を邪魔されて、その上首の傷は深く抉られて。
 ようやく死ねると思ったのだ。誰も見てくれない、居場所のない世界から消えられると本気で思ったのに。

「すまねぇ。本当は、傷付く必要のなかったお前を………傷付けちまった」
「ち、ちが……っ!」

 咄嗟に顔を上げようとすれば、それを阻止するように顔を強く胸元に押し付けられた。
 まるで心臓の音を聞かせるようである。
 トクン、トクンとゆっくり心臓は脈打っていた。

「違う……違うよ、土方さん」
「何が」
「私、傷付いたことなんて一度もなかった。ずっと、守ってくれてたもん」

 傷付いたことはあったかもしれない。
 仲間を失った傷。身を痛めつけられた傷。一人になった傷。色んな傷を負ってきた。
 けれど、傷付く必要がなかったというのは間違っている。