想いと共に花と散る

 二人からしてみれば、小姓を辞めた雪がこの場にいること自体が異様に思える。
 その上、何処から持ってきたのか分からない切っ先の折れた刀を持っているのだから尚更だ。

「土方さんの所に行くんですね」

 もしも、生まれた時代が違っていれば。
 市村とは絶対にいい友達になれた。同じ学校に通って同じクラスで授業を受けて。
 そんな世界があれば、さぞ幸せだったことだろう。

「もう、決めたから」
「何を見ても耐えれるんだろうな」

 耐えられるかどうかは実際に見てみないと分からない。
 仮に耐えられないとして、それが行かない理由にはならないだろう。

「……行きます」

 ここで引き返すほうがきっと耐えられない。いつまでも「どうしてあの時」と後悔するに決まっている。
 なら、何を見てもいいから進まなくては。
 迷いなく言い切ると、伊庭は少ししてから満足そうに笑った。

「なら付いて来い! 道は俺達が切り開いてやる!」
「僕らが必ず連れていきますから!」

 そう言って、二人は走り出す。

「二人とも、ありがとうっ」

 刀を鞘に納めて胸元に抱き寄せると、雪は二人の背を追って走り出す。
 左右から敵が襲い掛かって来ても、遠くから銃弾が飛んでこようと、二人はひたすら雪を守り続けた。
 五稜郭の石垣が視界に入り始めた頃、空気は完全に火薬の匂いに染まる。
 白煙が低く流れ、視界が揺らいだ。

 ―――パァンッ!

 銃声はもう遠くない。耳鳴りがするほど、すぐ近くから聞こえた。

「下がれ!」

 伊庭の声と同時に、雪の頬を風が掠めた。
 その直後、背後の木に弾丸がめり込む鈍い音が追い駆けて来る。

「前だけ見ていてください!」

 市村の叫びに、雪は強く頷いた。

(怖い……)

 足が震える。けれど止まらない。止まれない。
 雪の胸に抱えた刀が、微かに熱を持っている気がした。
 石垣の向こうから怒号が響く。
 旧幕府軍の羽織が翻り、新政府軍の黒い軍服がぶつかり合う。
 刀と刀がぶつかる音。地を蹴る足音。誰かの名を呼ぶ声。
 その中心に、いる。

(あの人がいる)

 鼓動が喉元までせり上がり、立ち止まれば全てを吐き出してしまいそうだ。
 けれど立ち止まることだけはしない。

「結城さん!」

 市村が手を伸ばし、雪を庇うように立つ。
 目の前に飛び出してきた兵を、伊庭が一閃で薙ぎ払った。
 血が飛ぶ。だが、雪は目を逸らさなかった。
 逸らさないと決めたのだ。

「もうすぐだぜ!」

 伊庭が叫び、行く手を阻んできた敵兵を翻した刀で斬る。
 足元が崩れそうになりながらも、雪は前だけを見て石段を駆け上がった。
 少しでも近づくために手を伸ばし、前へ進むことだけを考えて。