想いと共に花と散る

 五稜郭に近づくに連れ、聞こえてくる銃声の数と大きさは増した。確実に戦場に近づいているのである。
 足元に死体が転がっていようと、銃弾が頬を掠めても、雪は走り続けた。
 ただ、あの人の隣に行きたい。その一心で。

「おい!」

 目の前に真っ黒の軍服を身に纏った男が現れた。血塗れで、荒い息を繰り返している。

「餓鬼がこんな所で何をしている」
「通してください」
「賊軍は餓鬼であろうと通すわけにはいかん」

 そう言って迷いもなく銃を構えると、銃口を雪の眉間に向けた。いつでも撃てる、そう体現している。
 きっと叶わない。雪が一歩踏み出せばすぐに脳天を撃ち抜かれるのだろう。
 それでも。

「それでも……」

 鞘から刀を抜き、敵兵に向けた。

「私には、行かなきゃならない理由があるんです」
「切っ先の折れた刀で何ができる!」

 沖田が池田屋事件の際に使用した加州清光は、その激戦によって切っ先が折れてしまったとされる。
 刀は折れてしまえば使い物にならない。ほとんどが破棄されるか、新たな刀を打つための材料になる。
 ただし、折れたからといって刀本来が持ちうる強さを失うわけではない。

「折れた刀にだって、想いはある!」

 刀とはどうやって振れば相手を斬れるのだろう。
 適当に振るうだけでは斬れないことは分かる。現に、構えているだけでもその重さで腕が震えているのだ。

「想いだと? 戯言を抜かすな!」

 死ぬわけにはいかない、こんな所で死ねない。
 それなのに、刀を構えたまま動くことすらできなかった。
 引き金に掛けて指に力が籠もる。後少し押せば、銃口から弾丸が飛び出す───。

「よっと」
「はああ!」

 けれど、向けられた銃口から弾丸が打ち出されることはなかった。
 瞬きの内に敵兵の首、胴、足はバラバラに千切れ、その場に鈍い音を立てて倒れる。
 
「結城さん! 何故来てしまったのですか!?」
「おいおい。流石に今回ばかりは茶葉じゃあ敵は欺けないぜ」

 倒れた敵兵の背後には、少し見ない間に大人びた市村と、また傷が増えた伊庭が立っていた。

「私、行かないと!」

 刀を握ったまま、大きく踏み出した雪は焦る気持ちを押し殺して必死に叫ぶ。
 二人は顔を見合わせて、訳が分からないと首を傾げた。