想いと共に花と散る

 姿見の前には、決意に満ちた顔をする、かつて鬼の副長と呼ばれていた男の小姓が立っている。
 関係を失ったからなんだ。小姓を辞めたからなんだ。
 彼の隣りにい続けたいと思ったのは、小姓だからという理由だけではない。
 そこに確かな想いがあるからだ。この想いの名前は分からない。
 それでもいつか散ってしまうのなら、この想いと共に彼の隣で花と散りたい。

「ごめんね、少しだけ力を貸して」

 机の影に立て掛けていた長細い袋を手に取る。持ち上げると、ずっしりとした重さを感じた。
 袋の口を閉じていた紐を解き、中に入っているものを取り出す。
 雪の手には、一振りの刀が握られていた。

 銘 清光

 池田屋事件の際に沖田総司が使用していたとされる刀剣。
 江戸で彼の最期を看取った時、極秘に持ち出したものであった。
 最期まで雪の隣りにいたいと願った彼は、この刀を杖にしてまで庭に出た。そこにあった想いの名前など知る必要もない。
 
『大丈夫。自分を信じるんだ』

 沖田の声が聞こえた。目を閉じれば、いつだって変わらなかった彼の笑顔が見える。

「ありがとう。総司君」

 真っ直ぐと前を向き、刀を抱えて部屋を飛び出す。
 二階から一階に続く階段を駆け下り、玄関扉を開けようとした時。

「雪ちゃん……?」

 つねの声がすぐ背後から聞こえた。心配と、察しが混ざった声である。
 雪は振り返った。目はもう迷っていない。
 その反面、つねが向ける目には涙が浮かんでいる。

「行っちゃうの?」
「つねさん」

 初めて出会った時、腹の底が読めなくて話していると調子が狂う変わった人だと思った。
 いつもふわふわと朗らかな笑顔を浮かべていて、天然な一面が多く見られて。
 けれど、ただ優しいだけではない。時折見せる厳しさは、兄を持つ妹とは思えないほど強かった。

「今までありがとうございました」

 兄がいる妹同士。兄が大好きで堪らない者同士。
 親友と似ていたから、その面影を重ねていただけだったのかもしれない。
 だが、今なら分かる。
 つねも大切な親友だ。独りにならないようにずっと傍にいてくれて、いつだって笑ってくれた。

「つねさん! 私、つねさんのこと大好きだから!」

 言えばよかった。別れる前に、大好きだと彼女にも言えばよかった。

「私も、雪ちゃんのこと大好きよ! だから、もう迷わないで。自分の進むべき道を進み続けて!」

 もしかしたら、同い年の女子同士でいられた世界があったのだろう。
 それでも、彼女の妹でありたいと思ってしまう。大好きな姉と、大好きな兄達。皆が傍にいた。