―――パァンッ!
乾いた音が夢を裂いた。雪は息を詰めて目を開ける。
「はっ……はあ、はあ」
暗い天井が視界に飛び込み、一瞬、自分が何処にいるのか分からなくなる。
無意識の内に胸元を押さえていた。鼓動だけがやけに大きく響く。
―――パァン、パァンッ!
今度ははっきりと聞こえた。銃声が継続的に何度も聞こえてくる。
遠い。けれど、遠すぎない位置からだ。
布団から飛び出し、縋り付くように窓際に寄った。
(……戦?)
戦は、ずっと続いている。分かっている。分かっているのに。
今日の音は、何かが違った。
胸の奥が嫌にざわつく。理由なんて無い。けれど、確信だけがある。
これは、ただの一戦じゃないのだと。
「土方さん」
もう関係はなくなったはず。気にする必要も、心配する必要もない。
けれど、静かな部屋で、乱れていない机を前にして、何も変わっていないものに恐怖を感じた。
本当にここが自分の居場所なのかと。
こんな平穏な場所で一人でいることが自分の望んでいたことなのかと。
(……嫌だ)
胸の奥が苦しい。痛くて、気持ちが悪くて、むず痒くて。
この銃声が聞こえる先にいる。あの人がいるのだ。
「駄目だよ……」
このまま終わるのか? このまま顔を見ることすらできず、終わってしまうのか?
嫌だ。
まだ何も伝えていない。何も届いていない。
一度だって言えていないのだ。「助けてくれてありがとう」と。
言いたかったのに言えないまま、ここまで来てしまった。
「……行かないと」
覚悟を決めると、自分でも驚くほど真っ直ぐな声が震えずに出た。
―――パァンッ!
もう一度聞こえた銃声に心臓が跳ねる。
(絶対に、後悔する)
行かなければ、あの人がいる場所に行かなければ。
何が起きているのか、この目で見なければ。
遅れたら、一生悔やむことになる。それだけははっきりと分かった。
机引き出しを乱暴に開けて、中にしまっていた桜色の結い紐を取り出す。ずっと身に着けていたからもうボロボロだ。
それでも宝物であるのには変わりない。結い紐を握り締め、雪は鏡の前に立つ。
寝起きのままの髪が、肩に落ちている。
指先が僅かに震えた。それでも、桜色の結い紐で長い黒髪を結い上げる。
きつく、絶対に解けないように。
これは覚悟だ。
もう逃げないという、最後の戒めなのである。



