想いと共に花と散る

 馬を走らせ突っ込む土方、状況を冷静に把握して企画な指示を飛ばす黒田、それらは退くなほどに対比する。
 土煙が跳ね上がった。蹄が地を打ち、空気を裂く。
 最前にいた土方は誰よりも前へ行った。
 銃声が重なり、白煙が視界を覆って世界が灰色に沈む。

「退くな!」

 止まらず馬を走しらせ続けながら叫んだ土方の声が響いた。
 そんな土方の背を追う者達がいる。まだ、鬼の副長を信じている者達が。

「副長! ここは我々におまかせを!」
「貴方はそのまま突き進んでください!」

 まだ、副長と呼んでくれる者達が追いかけてきてくれているのか。
 勝っちゃん、総司、皆。
 俺は、立派に副長……やれてるか?

「相手は、かの有名な新撰組鬼の副長だ! 迎え撃て!」

 黒田の号令に従い、銃剣の列が意気揚々と迫った。
 規則正しい足並み。乱れない隊形。圧倒的な統率が取られている。
 近代軍、その象徴であった。

「鉄之介!」
「っ! はい!」

 すぐ傍を必死に走っていた小姓は、初めて己の名前を呼ばれたことに喜びを隠さない。
 もしかすれば、彼の隣にもう一人の姿があったのだろう。

「何処まで付いて来る」

 隊士に選択肢を与えるのは、戦場において頭がすべきことではない。
 それでも、選ばせたかった。もう一人の小姓にできなかった分、彼にだけでも。
 問われた市村は一瞬だけ顔を伏せ、それから真っ直ぐと土方の顔を見上げた。

「何処までも付いて行きます!」
「よし、なら続け!」

 圧倒的な統率を保つ新政府軍に対して、旧幕府軍はここでも僅かな騎兵と歩兵で迎え撃っている。
 数でも装備でも劣っていた。それでも、土方は馬を引かない。
 敵兵に真正面からぶつかり衝撃を受けようが、 音が潰れ、空気が震え、何かが弾けようが。
 決して止まることだけはしなかった。

「大鳥さん! そっちは任せるぞ!」
「ああ!」
 
 砲撃の準備はできている。もう、迷いも躊躇も必要ない。
 土方は馬上から身を翻し、白煙の中へ消えた。
 影が揺れ、兵が崩れ、また立ち上がる。
 まさに乱戦、修羅場であった。近い距離で交わる息遣い、叫び声が混ざり合い、誰のものか分からなくなる。
 それでも、土方の動きだけは止まらない。
 無駄も、迷いも、躊躇もない。
 ただ前へ。

「……なるほど」

 その姿を黒田は自陣の後方から見ていた。
 冷静に静かに、だが、視線は外さない。

「さすがは鬼だ」

 小さく呟やかれた言葉は銃声によって掻き消える。
 伝え聞いた鬼の副長は誇張ではなかった。宮古湾海戦で対峙した時にも感じたものを今も感じる。
 崩れぬ胆力。前に出続ける背。あれが旧幕府最後の刃なのだと。