始めるのは難しくても、終わらせるのは簡単だった。
終わり、そう一言言えば終わりになるのだから。
「失礼します」
子供の成長とは瞬きしている間に進んでいく。初めて見た時は年相応の子供らしさがあったのに、今ではそれなりに勇ましくなった。
「お茶を煎れてきました」
「おう」
前はこの机にもう一つの湯呑みがあった。同時に二つの湯呑みが置かれて、どちらを取るか迷ったもの。
けれど、今は一つだけ。
そして顔を上げれば、そこにいるのは市村ただ一人だけ。
「土方さん好みの熱くて少し濃い目にしてみたんですが」
「そうか」
そう言われて湯呑みに手を伸ばし、一口啜る。確かに、熱いし濃い。
「悪くない」
「やっぱり違いますか」
乾いた市村の笑顔から目を逸らし、湯呑みの中に目を落とす。
条件は同じ。同じ茶葉、同じ湯呑み、同じやかん、同じ熱さ、同じ濃さ。
それなのに、何かが違う。
「……静かになりましたね」
そんなことはない。今でもあちらこちらで銃声が飛び交っている。
何処へ行っても誰かの怒鳴り声が聞こえて、悲鳴が銃声に掻き消されて。
到底静かとは言えない場所にいる。
だが、市村はこの場所の静かさを言っているのではなかった。
「会いに行こうとは思わないんですか?」
「何のために」
「理由なんて必要あります?」
今では市村くらいだ、この世で浅葱色のだんだら模様の羽織を着ているのは。
とうの昔に終わったはずなのに。
かつて京の町の治安を守っていた新撰組は終わったはずなのに。
市村だけは新選組隊士でい続ける。誰よりもい続けなければならない土方を差し置いて、市村はその羽織を着続けている。
「泣いていたんですよ。結城さんは、土方さんに置いて行かれたと泣いていたんです」
いつから、泣かせるようになってしまったのだろう。
笑っていてほしいと願ったのは、紛れもない自分の方だったのに。
「そんなに、薄情な人でしたか? 僕の知っている鬼の副長は、もっと厳しくて、それで……もっと優しい人だ」
優しさだけでは組織を一つにできない。だから優しさなんて言う甘えを捨て、鬼になった。
相手が誰であろうと容赦しなかった。
試衛館時代からの仲間ですら掟を破った罰として切腹させた。本人はた付いて行っただけなのに、誘き寄せてまで殺した。
「俺が、優しいだと?」
そんな人間が優しいはずなど、ありはしない。
終わり、そう一言言えば終わりになるのだから。
「失礼します」
子供の成長とは瞬きしている間に進んでいく。初めて見た時は年相応の子供らしさがあったのに、今ではそれなりに勇ましくなった。
「お茶を煎れてきました」
「おう」
前はこの机にもう一つの湯呑みがあった。同時に二つの湯呑みが置かれて、どちらを取るか迷ったもの。
けれど、今は一つだけ。
そして顔を上げれば、そこにいるのは市村ただ一人だけ。
「土方さん好みの熱くて少し濃い目にしてみたんですが」
「そうか」
そう言われて湯呑みに手を伸ばし、一口啜る。確かに、熱いし濃い。
「悪くない」
「やっぱり違いますか」
乾いた市村の笑顔から目を逸らし、湯呑みの中に目を落とす。
条件は同じ。同じ茶葉、同じ湯呑み、同じやかん、同じ熱さ、同じ濃さ。
それなのに、何かが違う。
「……静かになりましたね」
そんなことはない。今でもあちらこちらで銃声が飛び交っている。
何処へ行っても誰かの怒鳴り声が聞こえて、悲鳴が銃声に掻き消されて。
到底静かとは言えない場所にいる。
だが、市村はこの場所の静かさを言っているのではなかった。
「会いに行こうとは思わないんですか?」
「何のために」
「理由なんて必要あります?」
今では市村くらいだ、この世で浅葱色のだんだら模様の羽織を着ているのは。
とうの昔に終わったはずなのに。
かつて京の町の治安を守っていた新撰組は終わったはずなのに。
市村だけは新選組隊士でい続ける。誰よりもい続けなければならない土方を差し置いて、市村はその羽織を着続けている。
「泣いていたんですよ。結城さんは、土方さんに置いて行かれたと泣いていたんです」
いつから、泣かせるようになってしまったのだろう。
笑っていてほしいと願ったのは、紛れもない自分の方だったのに。
「そんなに、薄情な人でしたか? 僕の知っている鬼の副長は、もっと厳しくて、それで……もっと優しい人だ」
優しさだけでは組織を一つにできない。だから優しさなんて言う甘えを捨て、鬼になった。
相手が誰であろうと容赦しなかった。
試衛館時代からの仲間ですら掟を破った罰として切腹させた。本人はた付いて行っただけなのに、誘き寄せてまで殺した。
「俺が、優しいだと?」
そんな人間が優しいはずなど、ありはしない。



