想いと共に花と散る

 もっと一緒にいればよかった。
 もっと話し掛ければよかった。
 もっと色んな所に行けばよかった。
 もっと知ろうとすればよかった。
 もっと、もっと、もっと、もっとって。
 
「私、好きだったのに……」

 いつからとか、何処でとかなんてどうでもいい。
 この気持ちで重要なのは始まりではないのだ。大切なのは、この気持ちを抱かせた人と過ごした時間の方。
 だから、呟いた瞬間に胸の奥で何かが弾けた気がした。
 今まで曖昧にしてきた言葉。
 冗談に紛らせ、忠義にすり替え、役目だと誤魔化してきた感情。
 それが、ようやく形を持ってしまった。
 いや、違う。
 “好きだった”じゃない。

「好き、なの……」

 震える声で言い直す。
 過去形にしてしまえば、終わったことになる。けれど、終わっていない。終わらせられない。
 あの人が笑った顔も。
 ぶっきらぼうに背を向ける姿も。
 ふとした瞬間に見せた、誰にも言えない寂しさも。
 全部、まだ胸の中にある。

「……土方さんが、好きです」

 波が足元を攫う。冷たいはずなのに、何も感じない。
 前に伸ばしていた手はだらりと垂れ下がって、濡れることも気にせずにつねは雪の肩を抱いた。
 やっと分かった。
 あの人の隣にいたいと思った理由。
 戦場に立つ背中を追いかけた理由。
 小姓でいることに、あんなに必死にしがみついた理由。
 全部、全部。

「ずっと、隣にいたかった……」

 言葉にした途端、視界が滲み始める。
 遅すぎた。気づくのも、認めるのも、全部。
 今更言ってどうするの。
 今更分かって、何になるの。
 この想いを一番に伝えたい人は、ここにいないのに。
 同じ空の下。
 銃声と怒号が飛び交う中。
 きっと、命を削るようにして立っている。

「……どうして、いないんですか」

 問い掛けても、あの人の声での返事はない。
 あの人なら、きっと困った顔をして「何を今更」と言って呆れるのだろう。
 それでも、言いたかった。
 一度でいいから、隣に立って。

「好きですって……言いたかった……」

 それでも、もう前には進めない。
 進んだ先にいるはずの人が、隣りにいてくれていたはずの人が、もういないのだから。