想いと共に花と散る

 それから、三人は函館の街中を歩き回った。干物屋、文具屋、酒屋、雑貨屋など。
 言葉通りの穏やかな時間だった。
 銃声も、怒号も、爆発音も何も無くて。あるのは賑やかな笑い声ばかり。
 雪は歩きながら思った。これが、あの人の望んだ普通なのだと。
 血も、怒号もない。誰かと手を繋ぎ、他愛もない話に花を咲かせて街を歩くだけの時間。
 それなのに、どうして、こんなにも苦しいのだろう。

(嫌だなぁ……)

 彼のいない景色に、慣れてしまうことが怖い。
 今日を笑ってしまえば、今日を楽しんでしまえば、本当に全てが終わってしまう気がする。
 ギリギリの所で繋ぎ止めていた糸が千切れてしまうような。
 きっと、その糸が千切れてしまった時、完全に関係は終わってしまう。

「次は何処に行く?」

 だから、笑えない。
 だから、前を向けない。

「私……」

 歩きながら、無意識に空を見上げて探してしまう。
 何処かで銃声が響いていないかと。
 何処かで、あの人が倒れていないかと。心だけが、まだ戦場に置き去りのままだった。

「海に行きたいです」

 吐く息が白く染まり、はらはらと粉雪が舞っていた頃。
 初めて二人だけで何処かに出掛けた。彼から「一緒に来い」なんてぶっきらぼうに言われて。

「海? 函館湾のこと?」
「もう春になるが、まだまだ寒いと思うよ」
「それでも、海に行きたいです」

 ここに来て初めて、雪が自分から行きたい場所を口にした。つねと鷹宮は目を丸くして互いに見つめ合っている。
 四月も終わりかけで、季節で言えば春である。
 しかし、蝦夷の春はほとんど冬のようなもの。雪こそ降らないが、海なんかに行けば凍える寒さだ。
 それでも行きたいと思う理由が、探したいものが雪にはあった。

「あそこに行けば、何か分かるかもしれないんです」

 突拍子もなく戦場を離れろと言った理由。
 小姓を辞めろと言った理由。
 最後に無理矢理突き放すような態度を取った理由。
 自分から言っておいて、苦しげに唇を噛んでいた理由を知りたい。

「……そう、じゃあ行きましょうか」
「つね、さん」
「少し歩くけれど、まだ時間はあるからね」
「鷹宮さんも……ありがとうございます」

 教えてくれないのなら、自分で探せばいいだけのこと。
 隠し通せるなんて有り得ないのだから。