想いと共に花と散る

 この二人は、小姓という役職を失った雪を哀れに思ったのではない。
 ただ、あの鬼の隣で共に戦い続けてきた雪の気持ちを何よりも大切にしたのだ。
 その事に気づいた雪は唇を噛み、やがて小さく息を吐く。

「……少しだけ、ですよ」

 そう言って、次は雪の方からつねの手を握った。
 一瞬驚きに目を見開いたつねだったが、少しすると満面の笑みを浮かべる。

「ええっ!」

 手を握っただけでそんなに喜ぶ理由なんて分からない。けれど、無邪気笑うつねを見ていると全てが馬鹿馬鹿しく思えた。
 後ろを付いて来るだけだった鷹宮も雪の隣に立ち、三人が横並びになって再び歩き出す。
 最初に足を向けたのは、以前つねと二人で立ち寄った甘味処だった。
 暖簾は変わらず揺れている。あの日と同じ匂いが、通りまで漂っていた。
 店の戸を開けると、甘い餡の香りが胸に広がる。

「懐かしいわねぇ」

 つねは微笑み、同意を得るように雪の顔を覗き込んだ。
 雪は小さく頷くだけで、口を開こうとはしない。手を引かれるまま軒先の長椅子に座った。

「前は焼き菓子だったからぁ、今日は和菓子が良いわねぇ」
「ここのみたらし団子は美味しいんだ。結城君はみたらし団子は好きかい?」
「あ……ま、まあ」

 みたらし団子は嫌いではない。むしろ好きな方だと思う。
 この時代に来たばかりの頃、二人の兄と行った甘味処で初めて食べた。見たことはあっても食べたことのなかったみたらし団子を前に、目を輝かせたのはいい思い出である。
 あの時は、雪を挟むように二人が座っていた。まだ警戒心が溶けず、ただ逃げ出さないように監視するためだったけれど。
 あれから親友ができて、同じ場所に手を繋いで帰ったのだ。
 忘れられない、かけがえのない思い出だった。

「はい、雪ちゃん」
「ありがとう、ございます」

 三本の団子が乗った皿を差し出され、その内の一本手に取ると口に入れた。
 甘い。けれど、知っているみたらし団子の味とは全くの別物だった。
 店が変われば味が変わるのは当たり前。ただ、それだけではない気がする。
 餡が違う。餅が違う。材料が違うわけではない。
 あの時にあったはずの時間が変わってしまったからだ。

「どう? 美味しい?」
「……はい」

 笑うべきなのか、黙るべきなのかも分からない。
 この場所は、楽しかった記憶のある場所のはずなのに。今はただ、思い出が胸を締めつけるだけだった。