想いと共に花と散る

 正直言って、お出掛けをしようと言われても気分が乗らない。
 今の状況で何処に行ったって、楽しめる気がしなかった。余計なお世話だと言えば、あまりに酷だろう。

「お待たせしました」

 それから少しして、大した荷物も持たずに二人が待つ玄関口に向かった。
 服は蝦夷に来てから与えられた洋服、髪は結わずに降ろしたまま。清潔なのは清潔だが、何処かだらしない格好である。
 雪が顔を出すなりつねが大きく口を開けて固まるのだから、衝撃的な格好をしているのは事実である。

「ど、どうしたの……その格好」
「もう小姓ではないので、身分を偽る必要もないかなって」

 貼り付けた笑顔を見せれば、どうしてかつねは今にも泣き出しそうな顔をする。
 何も知らない鷹宮だけが、「綺麗な髪だ」とか何とか言って嬉しげに笑った。娘を持つ父親だから、人目で女だとわかる雪すら娘に見えるのだろう。

「お出掛けって言ってしましたけど、何処に行くんですか?」
「ああ、それがだね……特に行き場所を決めているわけではないんだ」
「えっ?」

 この人は何を言っているんだ。
 明らかに行きたい場所があるから雪を誘ったのではなかったのか。
 鷹宮の隣に立っているつねを見ると、彼女もまた気まずそうに苦笑いを浮かべている。彼女も行き場所は決めていないらしい。
 何がしたいのだ、この人達は。

「雪ちゃんの行きたい所に行きましょう」
「私の?」

 雪の返事も待たずに手を握ったかと思うと、そのままつねは歩き出してしまう。
 困惑が隠せない雪は背後を振り返るが、楽しげに笑う鷹宮は何も言わずに付いて来るだけ。

「ま、待って……」
「何処が良いかしらねぇ。あっ、前に行ったお店をもう一度回るのはどう?」
「ねえ、つねさん!」

 無理矢理手を振り払って、雪は道の真ん中で立ち止まった。大声を上げてしまったから、道行く通行人が奇異の目を向けてくる。
 しかし、そんなことなど意にも返さず、つねの顔を睨め付けた。

「行けるわけ、ないじゃん」
「雪ちゃん?」
「行けるわけない。皆は今も戦ってるのに、私だけ戦場じゃない場所に行くなんて……無理だよ」

 言い切ったはずなのに、声は何処か弱かった。
 つねは何も返さず、ただ雪の顔を見つめている。責めるでもなく、慰めるでもなく、ただ受け止めるように。

「無理でもいいのよぉ」

 やがて、つねは柔らかく笑った。

「無理なままでいいから、一緒に歩きましょう」

 その言葉に、雪は反論できなかった。
 背後に立っている鷹宮も静かに頷き、そっと雪の背中を押す。

「戦場に立たずとも、心が戦場にある者はいる。君は、もう十分に戦ってきた」

 その声音には押しつけがましさがない。ただ事実を述べるように穏やかだった。