想いと共に花と散る

 どれだけ答えを求めても、出てくるのは身勝手な我が儘ばかりだ。

「改心なんざ、できるわけねぇだろ」

 大鳥に背を向け、一歩踏み出しながら吐き出した。
 きっと、何を言ったってこの男は理解できない。これまでにどんな想いで雪を見てきたのかなど。

「最初から囲ったわけじゃねぇんだからよ」

 ずっと嘘を吐き続けて、全てを騙すことができたならば楽だっただろう。
 気づきたくないことに気づく必要がなく、ただ刀を振るっていれば良いのだから。
 けれど、もう後戻りできない所まで来てしまった。
 自分がしたことに目を向け、してきたことと同じだけの罰を受けねばならない。

「あいつを俺の小姓にしたのは、近藤さんだ」

 ぽつりと呟いたその言葉に、大鳥の目が僅かに揺れた。
 背を向けているから、今の彼がどのような表情をしているのか土方には分からない。

「ほう。新撰組局長の名をここで聞くことになるとは」
「あの人が決めたんだよ。俺も、あいつも、最初は嫌がったもんだ」

 今でも鮮明に思い出す。

『だって、誰も私のことを見てくれないから!』
『皆、普段は私のことを空気みたいに扱うくせに都合の良い時だけ利用するの! 名前なんて親にすらほとんど呼ばれないんだよ。だからいっつも考えるの、なんで生きてるんだろうって』
『別に死にたいってわけじゃない。ただ、何処でもいいからあいつ等がいない所で楽になりたかっただけ!』

 年頃の娘が刀を向けられても物怖じせず、むしろ斬り殺せと懇願する様は異様そのもので。
 どんな浪士を相手取っても恐怖の一つも感じなかったのに、初めて本能的な恐怖を感じたのだ。
 
『トシ、君の小姓にしてやりなさい。この娘を連れてきたのは君だし、息も合うようだからね』

 けれど、その後に分かったことがある。
 あの少女は、ただ知らなかっただけなのだ。愛され方を、愛し方を、信じることを、頼ることを、生きる意味を。
 
『いや、いやいやいや! 無理です! ここが何処なのかも分かっていないのに暮らすって……。ましてや男のフリをするなんて無理です!』

 始めの頃はあんなことを言っていたのに、結局は逃げ出すこともないままここまで付いて来た。
 無理やり押し付けられた小姓という役割を自分のものにしたのだ。
 小姓として生きることで、自分の存在意義、生きる意味、理由、それらを見つけていった。

「面倒だと思ったさ。餓鬼の世話なんざ御免だった」

 鼻で笑い、行き場を失った視線を窓の外に向ける。
 いるはずのない姿を探してしまうのは、未練というものがあるからなのか。

「向こうだってそうだ。俺の怒鳴り声に毎日顔を顰めやがって」

 茶を煎れれば濃すぎるか薄すぎるか。
 湯呑みを運べば零す、落とす、割る。そのあまりのどんくささに苛立つ方が疲弊したほどだ。