想いと共に花と散る

 廊下中に大鳥の叫び声が響いた。何事かと様子を伺う数名の兵士が顔を覗かせる。
 その事に気づいていないらしい大鳥は、土方を睨め続けた。
 しばしの沈黙の後、視線で兵士に部屋に戻るように訴えると、土方はもう一度大鳥を見た。

「……迷うんだよ」

 長い沈黙を打ち破ったのは、そんな力ない言葉。

「あいつがいると、どうしても迷っちまうんだ」
「何に、対してだい」
「死ぬ覚悟だ。俺は、とっくに死んでるはずだった」

 ただ運が良かったと言えばそれで終わる。病に冒されることも、戦場で撃たれることもなかった。
 自分よりも剣の腕が立ったはずの近藤や沖田が先に逝き、離れていった仲間は生きているのかも分からない。
 元々は実家の薬を売るために町中を練り歩くだけの人生だったのだ。
 刀とは無縁の生活をしていて、いざ剣に目覚めても誰よりも弱い。
 戦場では弱いものから死んでいく。当たり前のことであるはずなのに、どういうわけか今も生きている。

「鬼の副長と呼ばれた君とは思えない話だ」
「天邪鬼なんだろ、俺は。俺が生き残る未来なんざ、もう見えねぇんだよ」

 未来から来た雪は、全てを知っているはずだった。
 江戸で浪士組が結成されたこと、新撰組が存在したこと、散っていく者がいたことを。
 決して未来のことを語ろうとはしなかったが、土方の行く末を知っていてもおかしくはない。

「どうせ人は死ぬ。それが、少しだけ早かったんだ」
「まるで、死のうとしているようだね」
「さあ、どうだろうな」
「帰る場所で有り続けてほしいと願ったのは君で、有り続けたいと思ったのは彼女なのにかい?」

 伏見奉行所を追い出される前に雪に言った言葉は、ただの我が儘だったはずだ。

『私が帰る場所になります。だから、絶対に死なないでください』

 生きる理由がなければ無意識にでも死に場所を探してしまうから、都合のいい理由が欲しかっただけ。
 本気にする必要がなければ、本気にされると思っていなかった。

「君にとって彼女が帰る場所で、彼女にとって君が帰る場所だったんだろう?」
「……これ以上、俺の我が儘にあいつを巻き込むわけにはいかねぇ」
「今までずっと巻き込んできたんじゃないのか。何を今更になって改心しようとする」

 改心したいわけではない、償いたいわけでもない。
 ただ、大切すぎるが故に失うのが怖くなってしまった。そう言えば、大鳥は何と言うだろうか。