想いと共に花と散る


「雪ちゃんがいたから、皆が生きようとするの。帰るべき場所に帰るために、皆は戦うの」

 この時代に存在してはならない存在であり、歴史を変えてしまう恐れがある。
 行動一つで本来あるはずの未来を変えてしまうかもしれない。雪は、そういう人間だ。
 宮古湾での戦いなんて、歴史上に茶葉を投げてくる子供なんて船上にいるはずがない。
 当たり前のように存在しているようで、今にも歴史を変えてしまうような危うさを持っている。
 そんな雪を変える場所として生きる理由にするのは、彼らもまた歴史を帰る禁忌を犯す可能性があった。

「不思議な子だなって思ってた。男の子みたいに振る舞っているけど、実際は可愛い女の子だし。意外と乙女よねぇ、雪ちゃんって」
 
 くすくすと肩を揺らして笑ったつねは、肩から手を離すと次は手を握った。

「出会わなければよかったなんて思う子が、好きな人に対してあんなにも取り乱すなんてことある?」
「……へっ?」
「好きなの、雪ちゃんのことが好きなの。大事だから、守りたいって思うの」

 雪と向き合ったまま後ろ足で歩き出すつねは、それこそ恋する乙女のように頬を赤らめた。
 足取りは覚束ないが、軽やかで楽しげで。

「ただ、生きていてくれたらそれで良いって思うのよ」

 天高く昇った太陽がつねの笑顔を照らす。
 かつての親友も同じような笑顔を向けて、「雪」という名前を呼んでくれた。
 怪しい格好をした雪に対しても気さくに接して、知らない町のことをたくさん教えてくれた。
 今は何処で何をしているのだろう。もう誰かのお嫁さんにでもなったのだろうか。
 幸せでいてくれているなら、それで良い。
 嗚呼、そういうことか。生きていてくれたらそれで良いって思うのは、こういうことなのか。

「生きなきゃ、ですね」
「私がいるから大丈夫よ。女は強いんだから」

 今では当たり前のように女子として扱われる。恐らく、つねには出会った瞬間から正体を見破られていたのだろう。
 小姓でなくなった雪のことを変わらず「雪ちゃん」と呼び続けるのは、男でも女でもなく雪という一個人で見ていたから。
 土方が彼女を頼った理由がよく分かってしまった。