まとめた荷物を抱えて部屋を出て、五稜郭すら出てからも、誰も来てはくれなかった。
いるのは、同じ様に荷物を抱えたつねだけ。
きっと市村は何も聞かされていない。だから彼がここにいないのは必然的なことではある。
けれど、せめて大鳥達くらいは来てくれても良かったのではないか。そう思ってしまった。
「それじゃあ、行こっか」
もう半年近くも前のこと。
こうしてつねに手を引かれて、函館の町の中を一緒に歩いた。
あの時は見たことのないものばかりが目に入って、ただただ楽しかったのに。
今は足元に目を落として、手を引かれるがままゆっくりと歩いているだけだった。
「ここまで来たら誰もいないでしょうから言うけどね」
雪の手を引き、前を向いたままつねは言う。
ほんの少し早足になり、背後に聳える五稜郭から逃げるように歩き続けた。
「土方さん、もう限界だったんですって」
「……え?」
思わず立ち止まり、雪はつねの背中を見つめた。
言葉の一つも浮かび上がらない。つねの一言が脳内を駆け巡り、嫌な予感が胸を縛り上げていく。
ようやく振り返ったつねは、苦しげな笑顔を見せた。
「兄様も、大鳥さんも皆もう限界なの。それでも、鉄君や雪ちゃん、それに私には苦しんでいるところを見られたくないから、離れることを決めたのかもね」
刀も銃も使えない。女で非力で弱い役立たずだから必要がなくなった。小姓ならば市村だけで十分になった。
そんな理由であれば幾分か楽だったかもしれない。
「嘘でもいいから、見送ってくれたら良かったのに」
限界はいつから感じていたのだろう。いつから苦しんでいたのだろう。
幕府から見捨てられて大坂へと逃げた時?
近藤が処刑されて事実上の新撰組が解散した時?
かつての仲間と離れて蝦夷に向かうことになった時?
それとも、雪と出会った時?
「私、出会わなかったら良かったんですかね」
勢いよく振り返ったつねは、大きく目を見開いて雪を見た。何を言っているんだと言いたげな凄みがある。
「この時代にいるべきじゃない私と出会ったから、土方さんも皆壊れちゃった」
「っ……! そんなことあるわけないじゃない!」
引いていた手を離し、雪の眼前に立ったつねは大きく手を振り上げた。
本来なら、目を瞑ったり身体を強張らせたりして怯えるものなのだろう。
けれど、雪は振り上げられた手を見上げたまま、逃げることも叫ぶこともしなかった。
つねは怒りに歪んだ顔を背け、ゆっくりと力なく手を下ろす。
「そんなこと、ないわよ。雪ちゃんがいて皆が壊れるなんて……逆に決まってる」
「逆?」
雪の肩を掴んだつねは、ぎこちない笑みを浮かべて言った。
いるのは、同じ様に荷物を抱えたつねだけ。
きっと市村は何も聞かされていない。だから彼がここにいないのは必然的なことではある。
けれど、せめて大鳥達くらいは来てくれても良かったのではないか。そう思ってしまった。
「それじゃあ、行こっか」
もう半年近くも前のこと。
こうしてつねに手を引かれて、函館の町の中を一緒に歩いた。
あの時は見たことのないものばかりが目に入って、ただただ楽しかったのに。
今は足元に目を落として、手を引かれるがままゆっくりと歩いているだけだった。
「ここまで来たら誰もいないでしょうから言うけどね」
雪の手を引き、前を向いたままつねは言う。
ほんの少し早足になり、背後に聳える五稜郭から逃げるように歩き続けた。
「土方さん、もう限界だったんですって」
「……え?」
思わず立ち止まり、雪はつねの背中を見つめた。
言葉の一つも浮かび上がらない。つねの一言が脳内を駆け巡り、嫌な予感が胸を縛り上げていく。
ようやく振り返ったつねは、苦しげな笑顔を見せた。
「兄様も、大鳥さんも皆もう限界なの。それでも、鉄君や雪ちゃん、それに私には苦しんでいるところを見られたくないから、離れることを決めたのかもね」
刀も銃も使えない。女で非力で弱い役立たずだから必要がなくなった。小姓ならば市村だけで十分になった。
そんな理由であれば幾分か楽だったかもしれない。
「嘘でもいいから、見送ってくれたら良かったのに」
限界はいつから感じていたのだろう。いつから苦しんでいたのだろう。
幕府から見捨てられて大坂へと逃げた時?
近藤が処刑されて事実上の新撰組が解散した時?
かつての仲間と離れて蝦夷に向かうことになった時?
それとも、雪と出会った時?
「私、出会わなかったら良かったんですかね」
勢いよく振り返ったつねは、大きく目を見開いて雪を見た。何を言っているんだと言いたげな凄みがある。
「この時代にいるべきじゃない私と出会ったから、土方さんも皆壊れちゃった」
「っ……! そんなことあるわけないじゃない!」
引いていた手を離し、雪の眼前に立ったつねは大きく手を振り上げた。
本来なら、目を瞑ったり身体を強張らせたりして怯えるものなのだろう。
けれど、雪は振り上げられた手を見上げたまま、逃げることも叫ぶこともしなかった。
つねは怒りに歪んだ顔を背け、ゆっくりと力なく手を下ろす。
「そんなこと、ないわよ。雪ちゃんがいて皆が壊れるなんて……逆に決まってる」
「逆?」
雪の肩を掴んだつねは、ぎこちない笑みを浮かべて言った。



