想いと共に花と散る

 あの人の言う通り、朝になるとつねが雪の部屋を訪れた。
 布団の上で膝を抱えていた雪の傍に寄ったつねは、そっと小刻みに震える肩に手を置く。

「おはよう、雪ちゃん」
「……違います。私はもう、雪じゃない」
「え?」

 ゆっくりと顔を上げた雪の目は真っ赤に腫れ上がっている。
 土方と市村と別れた後、部屋に戻ってからも雪は泣いた。何度も涙を流して、答えのない「なんで」を繰り返した。
 結局現実は何も変わらず、いつも通りに朝が来てしまった。

「土方さんの小姓じゃない私は、雪でもなんでもない」

 早く準備をしてここを出なければならないのは分かっている。
 土方がどれだけの人に雪が小姓を辞めさせられた事を話しているのか、何故つねに頼ったのかは分からない。
 けれど、寄り添うように布団の傍につねが座っていることが答えである。
 もう戻れないのだと、受け入れたくないのに受け入れるしかなかった。

「雪ちゃんは、雪ちゃんよぉ。何処に行っても、それは変わらない」
「……っ……ぁ………」
「考えなしに何かを決めるような人じゃないことくらい、雪ちゃんが一番よく知っているでしょう。きっと、何か理由があるの」

 その理由さえ分かれば、こうして泣かなくて済む。
 つねとてそれが分かっているはずなのに、そしてその理由を知っているはずなのに、それ以上何も語ろうとはしなかった。

「だから、彼のためにも行きましょう」

 せめて独りにならなくて済むようにとつねを頼ったのだろう。
 女性であり、戦から遠い場所にいる彼女ならば、雪を血腥い場所から遠ざけられるから。
 恐らく、ずっと前からこの事は決まっていた。雪を小姓から外し、五稜郭から離れさせる。
 土方の独断ではない。大鳥も榎本も、それ以外の人間が揃ってこの計画を進めていたのだ。

「何処に、行くんですか?」
「……素敵な場所よ」

 優しい笑顔を浮かべたつねは今にも泣き出しそうで、そんな顔を誤魔化すように雪を抱き寄せた。
 もう分かってしまった。
 土方はこの部屋には来ない。最期に顔を見ることすら許されないのだと。
 離れたくないと言うことすら、もう叶わないのだ。