想いと共に花と散る

 にも関わらず、この戦争から身を引き、その上小姓を辞めろと言う。
 今更、土方の傍を離れて、小姓ではない立場になるなど想像すらできない。

「小姓じゃ、なくなったら……私、雪じゃなくなるんですよ?」
「っ……」
「土方さんの小姓だから、ずっと雪でいたのに」

 雪という名を付けたのは、まだ鬼の副長ですらなかった頃の土方だ。
 彼の小姓として生きる上で、自身の正体を隠すための偽名として与えられた。
 けれど、今では雪として生きるのが当たり前で、雪で隣りにいることが当たり前になっていたのである。
 土方との関係がなくなれば、雪という存在はおのずと消えることになる。

「もう、決めたことだ」

 それだけを言い残し、土方は立ち上がると雪に一瞥もくれずに部屋を出ていった。
 残された雪は俯き、状況を飲み込めないままでいた。

「……な、んで………そんなの、勝手すぎるでしょ」

 一体何のためにここまで付いて来たのだ。
 土方を支えるため? 隣で戦うため? それとも、ただ離れられなくなったから?

「ふざっけんなっ!」

 久々だった。こんなにも、誰かに対して強く怒りを感じることなど。
 しかも、あの鬼の副長と呼ばれた土方に対しては初めてである。

「結城さん?」
「っ、あ………」
「廊下まで声が聞こえていましたけど、何かあったんですか?」

 まだ包帯は取れていないが、歩けるほどに回復した市村が部屋の入口から顔を覗かせていた。
 まずい、他人に聞かせてはならない言葉を、一番聞かれたくない人に聞かれた。
 市村は不思議そうな目を雪に向け、小首を傾げている。
 これは運悪く、先程の叫び声だけ聞かれてしまったようだ。

「あれ、土方さんはいらっしゃらないんですか」
「……置いて、行かれちゃった」
「え? って、どうしたんですか!? なんで泣いて───」
「置いて行かれちゃったぁ……」

 その場に崩れ落ち、手で顔を覆って咽び泣いた。
 市村に見られていようと、この声が部屋の外まで聞こえていようと、雪はひたすら泣いた。

「置いて行かれた? 誰にですか? というか、何故泣くんです」
「もう、私……隣にいれないっ」

 逃げるように市村の身体を押し退けると、雪は泣きながら部屋を飛び出した。
 この時、初めて雪は誰かとの別れを自分から作り出してしまった。