想いと共に花と散る

 この声が届いているのかも分からない。聞こえるまで言い続けないのに、浮かぶ言葉の半分も口にはできなかった。

「お茶、また一緒に煎れようよ。それで土方さんに選んでもらおうよ」

 毎日のように茶を土方のために煎れる生活を何年も続けてきた。
 だから、彼の好みは雪のほうが知っている。勝負をしたとて、雪が勝つのは分かりきっていること。
 それなのに、意地悪な鬼はわざと市村が煎れた茶の方が好みだと答える時がある。
 二人ともそれが冗談だと分かってはいるけれど。
 大げさなくらい悔しがるのも、喜んでいる様を見るのも楽しかった。
 そんなくだらないことをしている間だけは、戦を忘れられた。

「……そう、ですね」
「っ……! 鉄、君」

 薄く開かれた目は、確かに雪を捉えていた。
 瞳に映る青年の目には涙が浮かぶ。何度も服の袖で擦るのに、その涙は次から次へと溢れて止まらなかった。

「何、泣いているんですか」
「だって、だって……また、誰かいなくなると思って……」

 静かな部屋の中に雪の啜り泣く声が響く。
 少しの間、市村は包帯が巻かれていない左目で雪を見つめていた。
 それから握られていた手を握り返す。

「戻ると、言ったでしょう」

 決して笑えるような状況ではないのに、痛くてたまらないはずなのに、市村はいつものように笑った。

(あの時も、皆はこんな気持だったの?)

 雪が辻斬りに襲われ、一ヶ月もの間眠り続けたあの時。
 交代で新選組の面々が看病に来てくれていたと土方は言った。なんてことのないように言っていたけれど、本当は不安で堪らなかったのか。
 このまま目覚めずに死んでしまうかもしれない。生きていても、眠ったままかもしれないという不安があったのか。

「ごめん、ごめんなさい」
「何に対して謝っているんですか」
「私、嫉妬してた」
「……嫉妬?」

 ようやく分かった。土方達が宮古湾に出る直前に、雪が市村に対してきつく当たってしまった理由が。

「羨ましかった。土方さんの隣で、同じ様に刀を持って戦える鉄君のことが。私には刀を振るう力すら無い。と言うか、触らせてすらもらえない。だから、ずるいなって……同じ小姓なのに、戦場に行ける鉄君に嫉妬してた」

 なんて馬鹿馬鹿しい話だろう。
 結局は、自分に力がないことに引け目を感じて、同じ立場でありながら先にいる市村を妬んでいただけ。