宮古湾海戦から数週間が過ぎた。今でも耳の奥であのガトリング砲の音が響く。
旧幕府軍は負けた。
甲鉄を奪還するという作戦は失敗に終わり、先の時代を進む新政府軍には敵わなかった。
いつだって先を突き進み、勝つための戦を続けてきたはずが、もうずっと負けてばかりだ。
(何も、できなかったなぁ……)
役に立てるとは微塵も思っていなかった。だが、せめても隣で共に戦いたかった。
けれど、結局は守られてしまって。
仲間が傷つき、散り、負けてしまった。
多くの仲間が散っていったのだ。誰も死なせないと心に決めたはずなのに、時代には抗えない。
宮古湾海戦で負傷した彼もまた、この部屋の先で静かに眠っている。
「……鉄君、入るね」
数回扉を叩き声を掛けるが、中から返事はない。
小さく息を吸い、ゆっくりと扉を開けた。中からは、血の匂いを誤魔化すための香が充満している。
西洋風のベッドが部屋の中央にあり、その上で市村が血が滲む包帯に身を包み寝ていた。
負けてから、今まで一度も目を覚ましていない。
遠くから砲撃の轟音が聞こえてきても、彼は苦しげに目を瞑っているだけ。
「起きて……?」
ベッドの脇の椅子に座り、そっと市村の手を握る。
温かいのに握る感触が曖昧で、何処か遠くへ行ってしまいそうな恐怖が募った。
「土方さん達がまた戦いに行ったの。ずっと銃とか爆弾の音が続いてて……その真ん中に、皆がいるんだ」
本心は付いて行きたかった。
負けてしまうことは目に見えているとしても、勝てる見込みのほうが少ないとしても、隣で戦えたらどれほど良かっただろう。
『あいつの隣りにいてやってくれ。お前にしか、頼めねぇからよ』
けれど、力なく笑いながらそう言われてしまい、雪は断る気にすらならなかった。
市村は自分と同じ土方の小姓。そして、主の名に従うのが小姓である雪の仕事なのだ。
彼に託された。ならば、雪は市村が目覚めるまで隣りにいて、土方達の帰りを待たねばならない。
「私が皆の帰る場所にならなきゃ。だから、ね。鉄君も早くこっちに来てよ」
一人だと、心細くてどうにかなりそう。
その言葉は喉の奥でつっかえて出てくることはなかった。
旧幕府軍は負けた。
甲鉄を奪還するという作戦は失敗に終わり、先の時代を進む新政府軍には敵わなかった。
いつだって先を突き進み、勝つための戦を続けてきたはずが、もうずっと負けてばかりだ。
(何も、できなかったなぁ……)
役に立てるとは微塵も思っていなかった。だが、せめても隣で共に戦いたかった。
けれど、結局は守られてしまって。
仲間が傷つき、散り、負けてしまった。
多くの仲間が散っていったのだ。誰も死なせないと心に決めたはずなのに、時代には抗えない。
宮古湾海戦で負傷した彼もまた、この部屋の先で静かに眠っている。
「……鉄君、入るね」
数回扉を叩き声を掛けるが、中から返事はない。
小さく息を吸い、ゆっくりと扉を開けた。中からは、血の匂いを誤魔化すための香が充満している。
西洋風のベッドが部屋の中央にあり、その上で市村が血が滲む包帯に身を包み寝ていた。
負けてから、今まで一度も目を覚ましていない。
遠くから砲撃の轟音が聞こえてきても、彼は苦しげに目を瞑っているだけ。
「起きて……?」
ベッドの脇の椅子に座り、そっと市村の手を握る。
温かいのに握る感触が曖昧で、何処か遠くへ行ってしまいそうな恐怖が募った。
「土方さん達がまた戦いに行ったの。ずっと銃とか爆弾の音が続いてて……その真ん中に、皆がいるんだ」
本心は付いて行きたかった。
負けてしまうことは目に見えているとしても、勝てる見込みのほうが少ないとしても、隣で戦えたらどれほど良かっただろう。
『あいつの隣りにいてやってくれ。お前にしか、頼めねぇからよ』
けれど、力なく笑いながらそう言われてしまい、雪は断る気にすらならなかった。
市村は自分と同じ土方の小姓。そして、主の名に従うのが小姓である雪の仕事なのだ。
彼に託された。ならば、雪は市村が目覚めるまで隣りにいて、土方達の帰りを待たねばならない。
「私が皆の帰る場所にならなきゃ。だから、ね。鉄君も早くこっちに来てよ」
一人だと、心細くてどうにかなりそう。
その言葉は喉の奥でつっかえて出てくることはなかった。



