想いと共に花と散る

 きっとあの先に土方がいる。雪はそう直感で強く思った。
 迫りくる敵を伊庭が捌き、飛び散る鮮血の間を縫って雪は走る。

「土方さん!」

 その名を呼ぶ雪の声が船上に響き渡った。一瞬にして周囲の視線が雪へと向けられる。
 新政府軍側と思われる男と対峙していた土方は、はっとした様子で雪を見た。
 まるで幽霊でも見るかのような目だ。

「……は?」
「土方さん、私だって戦えます! 私なりのやり方で、戦ってみせます!」

 船上の真ん中であろうと、彼を前にすれば震えていた手も落ち着きを取り戻す。
 やっぱり、土方の隣りにいるのが一番安心する。雪は、船上から離れた安全地帯にいるよりも、戦場で土方の隣りにいるほうが良いと思ってしまった。

「こいつぁおもしれぇぜ。茶葉で助けられちまった」

 伊庭を目を合わせ不敵に笑い、雪は新たな茶筒の蓋を開けた。
 興が削がれるとはこのこと。この場にいる誰もが、状況が飲み込めていない様子で固まっていた。

「土方さん。操縦室の制圧が完了しました! 次の指示を───」

 返り血を全身に浴びた状態で二階から飛んできた市村もまた、雪を見るなりぽかんと口を開けた。
 
「な、なんで……」
「鉄君」

 手にしていた茶筒を市村へと突き出し、屈託のない笑顔を向けた。

「私だって、弱くないからね」

 その言葉を皮切りに、再び船上は修羅場と化した。
 しかし、明らかに雰囲気が違う。新旧どちら側も目に見えて士気が上がっていた。
 味を占めた雪は、何人もの新幕府側の兵士目掛けて茶葉を投げつける。その隙を土方や伊庭が突いた。

「おい、雪! それ俺が京から持ってきたやつだろ!」
「まだたくさん部屋にありますから、安心してください!」

 次から次へと新しい茶筒を懐から取り出し、敵が近づいてくるなり投げつける。
 意外にも、敵の目眩まし程度にはなるようだった。

「なあなあ、俺にもやらせてくれ!」
「もちろんです!」

 戦場で、銃弾が飛び交う修羅場で、笑うのは彼らくらいのものだ。
 新政府軍側の兵士達からしてみれば、笑いながら茶葉を投げつけてくる様は狂気以外の何物でもない。
 現に、ほとんどの敵兵が茶葉なんてものに対して恐怖していた。

「茶葉は剣よりも強し、だな」

 きっと、誰もが形勢を逆転させられる、そう思っていただろう。