こんなにも上手くいくとは思わなかった。
(……土方さんは、何処?)
遅れて出発しようとしていた旧幕府軍側の兵士が乗る船に紛れた雪は、存外あっさりと土方達が乗っているであろう甲鉄に乗った。
血の匂いが満ち、あちらこちらに死体が転がっている。
「伊庭殿の護衛を!」
雪が紛れていた船に乗っていた兵士が何処かへと駆けていく。
今いる場所は船の後方、人の目につきにくい場所だ。
おそらく、彼らが言う伊庭と言う男も土方も皆は船の中央にいるのだろう。
駆け出す兵士の背中を追って、雪も船の中央を目指した。
「くそっ……!」
「きゃあっ!」
積み上げられた木箱の影から飛び出した時、突然目の前に人が飛んできた。
情けない叫び声を上げながら間一髪で避ける。
砂埃が晴れると、雪の目の前には、船の甲板にめり込んだ状態で頭から血を流す男がいた。
「だ、大丈夫ですかっ!?」
思わず駆け寄り、身体を支える。
虚ろな目を雪へと向けるなり、男はガバっと勢いよく身体を起こした。
「て、てめっ! なんでここにいんだぜ!?」
「伊庭さんですよね。できれば、理由は聞かないでもらえると助かります」
「はあ?」
不自然に揺れる羽織には見覚えがある。何度か五稜郭内ですれ違ったことがあった。
片腕のない剣客など、伊庭くらいのものなのだ。
その印象の強さは、彼の気性の荒さとよく似ている。
「土方さんは何処ですか?」
「言う訳ねぇだろうが。てめぇみたいな餓鬼が行って何ができるんだぜ」
「私は土方さんの小姓です。いつだって、傍にいるのが仕事です」
「そんな手ぶらで来て傍にいるだぁ? ただの足手まといにしかならねぇだろ!」
銃声に紛れて伊庭の叫び声が辺りに響き渡る。怯んでしまいそうなど、その語気は鋭い。
「邪魔だぜ。おつねさんはどうしやがった」
「五稜郭を守ってくれています。そして、皆さんの帰りを待っています」
「……役割を放棄したか」
鋭く細められた目に映るのは、船上には似つかわしくない少年。
伊庭には、雪という存在は単なる重荷でしか無かった。
「命知らずにもほどがあるぜ」
「……もう、置いていかれるのは嫌なんです」
ぽつりと零れ落ちた言葉は、誰に聞かせるものでもなかった。
伊庭から目を逸らし、膝の上で手を握り締める。
そんな雪を睨め付けていた伊庭もまた、刀を握り直した。
(……土方さんは、何処?)
遅れて出発しようとしていた旧幕府軍側の兵士が乗る船に紛れた雪は、存外あっさりと土方達が乗っているであろう甲鉄に乗った。
血の匂いが満ち、あちらこちらに死体が転がっている。
「伊庭殿の護衛を!」
雪が紛れていた船に乗っていた兵士が何処かへと駆けていく。
今いる場所は船の後方、人の目につきにくい場所だ。
おそらく、彼らが言う伊庭と言う男も土方も皆は船の中央にいるのだろう。
駆け出す兵士の背中を追って、雪も船の中央を目指した。
「くそっ……!」
「きゃあっ!」
積み上げられた木箱の影から飛び出した時、突然目の前に人が飛んできた。
情けない叫び声を上げながら間一髪で避ける。
砂埃が晴れると、雪の目の前には、船の甲板にめり込んだ状態で頭から血を流す男がいた。
「だ、大丈夫ですかっ!?」
思わず駆け寄り、身体を支える。
虚ろな目を雪へと向けるなり、男はガバっと勢いよく身体を起こした。
「て、てめっ! なんでここにいんだぜ!?」
「伊庭さんですよね。できれば、理由は聞かないでもらえると助かります」
「はあ?」
不自然に揺れる羽織には見覚えがある。何度か五稜郭内ですれ違ったことがあった。
片腕のない剣客など、伊庭くらいのものなのだ。
その印象の強さは、彼の気性の荒さとよく似ている。
「土方さんは何処ですか?」
「言う訳ねぇだろうが。てめぇみたいな餓鬼が行って何ができるんだぜ」
「私は土方さんの小姓です。いつだって、傍にいるのが仕事です」
「そんな手ぶらで来て傍にいるだぁ? ただの足手まといにしかならねぇだろ!」
銃声に紛れて伊庭の叫び声が辺りに響き渡る。怯んでしまいそうなど、その語気は鋭い。
「邪魔だぜ。おつねさんはどうしやがった」
「五稜郭を守ってくれています。そして、皆さんの帰りを待っています」
「……役割を放棄したか」
鋭く細められた目に映るのは、船上には似つかわしくない少年。
伊庭には、雪という存在は単なる重荷でしか無かった。
「命知らずにもほどがあるぜ」
「……もう、置いていかれるのは嫌なんです」
ぽつりと零れ落ちた言葉は、誰に聞かせるものでもなかった。
伊庭から目を逸らし、膝の上で手を握り締める。
そんな雪を睨め付けていた伊庭もまた、刀を握り直した。



