想いと共に花と散る

 どちらも数多の戦を潜り抜けてきた身。剣を交えれば、重く刃が軋んだ。
 押し合う鋼の震えが、腕を通して骨まで伝わる。
 黒田の息は荒い。だが、その目はまだ死んでいなかった。

「……土方歳三」

 低く、噛み締めるように名を呼ぶ。
 互いの刃から火花が散った。
 何度もぶつかり合い、何度も弾き合う。
 鍔迫り合いのまま、距離は開いて縮まってを繰り返した。

「貴殿んごたる男が、敵でなかごたら――……どんだけ心強か存在じゃったか分からん」

 土方の目が細まる。
 押し合う刃の向こう、黒田の額に滲んだ汗が火薬の煙に混じって流れ落ちた。

「今さら懐柔か」

 低く落とした声音で吐き捨てる。

「そげなこつじゃなか」

 即座に返る否定は鋭い。だが怒鳴りつけるのではなく、芯の通った声だった。
 黒田の息は荒い。それでも、その瞳だけは濁らないままだ。

「武人として言うちょる」

 刃に込める力が増す。鋼と鋼が噛み合い、甲板に嫌な軋みが響いた。

「貴殿の太刀は真っ直ぐじゃ。迷いがなか。己が信じたもんのために、ここまで抗う――……」

 土方の腕に伝わる震えは、怒りだけではない。
 この男は、本気でそう思っている。

「退路もなか、勝ち目も薄か戦で、なお前に出る。その胆力……」

 歯を食いしばりながら、黒田は吐き出す。

「そん在り様には、敬意ば抱いちょる」

 一瞬、刃の圧が緩んだ。
 戦場の喧騒が遠のく。砲声も怒号も、まるで海の底から響いてくるように鈍い。
 互いの呼吸だけが近く、一瞬の油断も迷いも許されはしないのだ。
 だが、黒田の瞳に宿るのは、揺るがぬ決意だった。

「……じゃっどん、ここで終わらせにゃならん」

 次の瞬間、黒田との間にあった圧が爆ぜる。
 刃が弾かれ、火花が散り、黒田が一歩深く踏み込んだ。
 鋭い一閃が風を裂く。
 土方は半身をずらし、紙一重で受け流す。しかし、袖が裂けて血が滲んだ。

「勝者の余裕か」

 黒田の足が止まらない。踏み込み、返し、間合いを詰める。

「違う」

 軍刀を古いながら、黒田は低い声で返した。
 そこに驕りはない。決意だけを宿した目を土方に向け、重々しく口を開く。

「時代ば背負うた者の責務じゃ」

 重く、血に叩きつけんばかりの刀が振り下ろされる。
 理で鍛えられた一撃。感情だけではない、背後に幾千の命を背負った重みを有する。
 土方は正面から受け止めた。
 衝撃が骨まで響き、足元の板が軋む。刃と刃が食い込み、火花が顔を照らした。
 血の匂い。
 潮の匂い。
 火薬の煙。
 互いの息がぶつかるほど近い距離で、睨み合う。
 退かぬ。
 退けぬ。
 守るものも、背負うものも違う。だが、その覚悟の重さだけは等しい。
 再び同時に踏み込む。
 鋼が悲鳴を上げ、火花が連なり、甲板に赤が飛び散る。