想いと共に花と散る


「……随分と、豪勢な出迎えじゃねぇか」

 開けたその先、軍服の裾が風を受け、濁りのない目がまっすぐこちらを射抜いていた。

「……新選組副長、土方歳三とお見受けする」

 狙っていたかのように空には雲が掛かり、その低い声の主の顔に影を作る。
 名を呼ばれ、土方は笑った。

「薩摩の黒田か」

 その一言で、目先にいた男はゆったりを顔を上げた。
 影が消え、素顔を露わにする。
 煙の向こうから現れた男は、まるで嵐の中心のように静かだった。

「お目にかかれて光栄だ。貴殿の名は、京より届いている」

 その声に、瞳に宿っているのは冷静ただ一つだ。
 息も乱れていない。戦場で何人もの仲間が散っていく中、抱くであろう恐怖など微塵も無い様子である。

「降伏すれば命までは取らない」

 左手に握っている中を構えることもなく、頃だは淡々と告げるだけだ。
 端から戦う気などない。戦ったとて、勝てる未来が見えているのである。
 その言葉に、土方は喉で笑った。

「笑わせるな。俺ぁはまだ負けてねぇ」
「戦況は見えているはずだ」
「見えているとも」

 何かを言い掛けた黒田のことなど無視して踏み込む。
 刃が閃き、咄嗟に構えられた黒田の銃剣と火花を散らした。
 衝撃が腕に伝わる。ビリビリと電流が走るように神経が叫び、気を抜けば刀を取り零してしまいそうだ。
 黒田は距離を取り、理性的な間合いを保とうとする。
 距離が空いたことに土方が気付いた瞬間、黒田が構えた銃口から弾丸が飛び出した。
 弾丸が土方の耳元を掠める。

「貴殿は勇敢だ。しかし無謀すぎるとは思わぬか」
「時代の勝者が言う台詞だな」

 再び踏み込むが、寸前で斬撃を読まれ、銃床で受け止められる。
 その力は互角と言えた。
 否――……黒田は一歩引いて戦っていたのだ。

「これ以上、無駄な血を流すな」
「無駄かどうかは、俺が決める」

 土方の刃が敵兵を薙ぎ払った。
 想定よりもこちらの士気が高い。それはこの上ない好機である。
 その刹那、黒田の視線が揺れた。

「……まだ抗うか」
「抗う? 違うな。俺は斬りに来ただけだ」

 黒田の呼吸が僅かに荒くなる。構えている銃は震え、目は揺れていた。

「この戦は、もう終わっている!」

 ここまで保っていた冷静さは消え、声が強くなる。
 黒田は焦りを隠すことすらできずに銃を構え、土方を捉えたまま撃った。
 だが、土方は止まらない。距離を詰め、銃身を弾き上げる。
 刃が黒田の頬を掠め、血が一筋落ちた。

「……なして、分からん!」

 空気が変わる。黒田の叫び声が船中に響き渡る。
 抑えていたものが、堤防が壊れたように溢れ出たようだ。

「もう時代は動いたっち言うちょる!」

 辺りで琴の成り行きを傍観していた兵がざわめく。
 黒田は一歩踏み出し、血相を変えて叫んだ。

「薩摩も長州も、命ば懸けてここまで来たとぞ! 今さら退けるか!」

 とうとう銃を投げ捨て、刀を抜く。鋭い一閃が放たれた。
 土方の刃と真正面からぶつかる。
 重い。が、理性だけではない、怒りの重さが剣技を邪魔している。

「退く気はない」
「ならば――……力ずくで終わらせるしかなか!」

 甲板に火花が散る。
 時代と時代が、真正面から噛み合った瞬間であった。