想いと共に花と散る

 鋭い砲声が空を裂いた。
 衝撃が船体を震わせるたび、甲板の上で火薬の匂いが濃くなる。

「右舷、三番砲、遅い! 間隔を詰めろ!」

 土方は濡れた甲板に立ち、微動だにせず敵船を見据えていた。
 向こうの砲撃は、恐ろしいほどに正確だ。
 乱れがなく、無駄もない。相手方の指揮官が優秀であるのが陣形から見て取れた。

(油断ならねぇな)

 腰に提げた刀を握る手に力が籠もる。今すぐにでも濃口を斬らんばかりの圧力が、全身から溢れ出したのは言わずもがなだ。
 敵船内に立ち込める煙の向こう、高々と掲げられた旗の下に立つ影が目に入る。

「距離は」
「およそ三町!」
「詰めるぞ」
「副長!」
「撃ち合いで消耗するな。ぶつける」

 土方の判断によって、船内にはざわめきが走った。
 誰もが無謀だと拒絶するのに必死である。だが、土方の声は揺れない。
 あの船の上に見える人影が、この無駄のない陣形を生み出した指揮官であるとすれば。

「舵を切れ。斜めに入れろ。真正面は読まれる」

 船が軋み、波を切った。砲弾が水面を削り、白い飛沫が上がる。
 それでも船は止まらない。敵船目掛けて悠々と動き出した。
 ここで立ち止まれば、それこそあの人影の判断一つでこの船は沈められる。
 土方は刀の柄に手を掛けたまま、すっとその目を細めた。

「……かかれ」

 その瞬間、船体同士がぶつかり、鈍い音が腹に響いた。
 一瞬の内に目の前には敵船が立ち塞がっており、船上からでも向けられる銃口が見える。

「乗り込め!」

 次の瞬間、土方はもう走っていた。
 揺れる板を蹴り、敵船へ飛び移る。着地と同時に抜刀。
 最初に飛びかかってきた兵の喉を、横薙ぎに払った。
 真一門に赤い線を負った首から溢れ出た血が甲板に散る。
 銃声。
 火花。
 怒号。
 次々と迫る敵を、土方は迷いなく斬り伏せていった。

「ちっ……!」

 正面から飛びかかってきた兵士の刀を受ける。その衝撃で刀が重くなるが、腕は鈍らないままだ。

「退くな! 囲め!」

 誰のものかは分からないが、聞き馴染みのないものだから敵の声だろう。そんな怒号が飛ぶ。
 その怒号と同時に、土方と刀を交えていた兵士を含む数人が包囲の動きに移った。

(いいぜ。まとめて来いよ)

 踏み込んだ瞬間、視界の端で敵の動きが変わった。
 突如として、土方を囲んでいた兵が割れる。自然と中央には道ができた。