想いと共に花と散る

 揺れ動く市村の瞳は、真っ直ぐと土方を捉えている。
 やはり、まだ未熟と言える。土方の発する一言一言に身体を震わせて怯える様は、濁して言えば純粋無垢だ。

「生き延びることだ」

 そんな未熟な少年が「生きて戻る覚悟」を口にした。
 口先だけの淡い言葉ではあるが、裏にある決意は一蹴するにはもったいない。
 これほどの大口をたたけるのだ。試してみても損はない。

「……よし、ならば次は第二試験と行くぞ」
「え、行くって何処へ?」
「ここには、ちょうどいい広さの庭がある。そこですることと言えば、一つしかねぇだろう?」

 口角を上げて不敵な笑みを浮かべ、土方はくるりと市村に背を向けた。
 顔を直接見ずとも戸惑っていることが手に取るように分かる。やはり、年相応の純粋さは消せないらしい。

「先に内郭に出て待っていろ」
「は、はいっ!」

 ぱたぱたと駆け出す足音が遠のき、完全に聞こえなくなった頃、ふうと小さく息を吐いた。
 
「少し、脅しすぎたか……」

 だが、あれくらい強い態度を見せなければ無駄な幻想見せてしまうだけであるのも事実。
 何でも良いように言えば、人間はそれ以上に良いように捉える生き物だ。
 特に、疑う心が未熟な市村のような年代は、より感化されやすい。
 
(まあ、腕試ししてぇのは本心だ。ちょうどいい機会じゃねぇか)

 剣術の心得があり、銃が扱え、生きて戻る覚悟があると言ったのは市村本人だ。 
 実際、前線に出られる戦力が増えるのは助かる面が多い。
 市村がどれだけ使うに値する人間なのか、見てみたいというのが本心であった。
 部屋の中を見渡し、もう一度深く息を吐く。

『副長!』

 今はそう遠くない過去、そんな肩書で呼ばれていた頃があった。
 毎日その肩書で呼ばれて、屯所内を走り回り、剣を交え、酒を酌み交わし、同じ未来を夢見ていた。
 今や、その肩書で土方を呼ぶのは市村くらいだ。誰も好んで呼ぼうとはしない。

『我々の誠は、君と共にある』

 桜並木の下に浅葱色の背中が並んでいる。手を伸ばせば届く距離、けれど誰も振り返ってはくれない。
 行くなと言っても、止まれと言っても、あいつらは先へ先へと行ってしまう。
 もう一度目を開けた時、桜並木どころか花の一つもない殺風景な部屋が目の前にはあった。
 部屋の端にある襖の前に立ち、そっと開ける。
 色褪せた浅葱色の羽織を手に取り、何気なく慣れたことのように広げてみた。