想いと共に花と散る

 コンコンと硬い音が静かな部屋に響く。畳に座ってぼんやりと窓の外に視線を投げていた土方は、すっと滑るように部屋の入口を見た。

「土方さん、市村です」
「入れ」

 短い返答と同時に扉が開き、重苦しい表情をした市村が部屋に入る。
 先程の軍議中に乱入してきた時の威勢の良さは何処へやら。
 何処か不安げな目を自信の斜め下に落としていた。今になって不安にでもなったのだろう。

「お前に聞きたいことがある」
「聞きたいこと、ですか?」
「ああ」

 壁にもたれ掛かるようにして座っていた姿勢から、膝に肘を着いて前のめりになる。
 扉の前で立ち尽くす市村をじっと見つめた。

「まず、何故前線に立ちたがる」

 何が彼に影響を与えたのかなど知らないし、知りたいとも思わない。
 だが、どうして今になって前線に立ちたいと言い出すのかが理解できなかった。
 どんな理由であれ、今の土方は市村を前線に出すつもりはない。理由もなく拒否すれば市村が納得しないだろうから、取り敢えずもこうして部屋に呼んだのだ。

「ここにいるだけでは足りないと、思いました」
「足りないとは何がだ」
「僕自身が、です」

 ぴくりと、土方の眉が動いた。

「伝令や雑務だけでは、守れないものがあると」
「何を守る」

 いつの間にか、土方の方が本気になっていた。最も、当の本人はそれに気付いていない。
 ぴんと背筋を伸ばした市村は、胸を張って答える。

「仲間を……そして、貴方をです」
「守るだ?」

 畳から重い腰を上げた土方は、ゆったりと歩き出す。

「誰が誰を守るって?」

 市村の目の前にまで行くと、立ち止まって見下ろした。
 こうして間近に迫れば、市村の未熟さは一層目立つ。それは年齢の差と骨格の違いが原因している。
 元服したばかりの市村が土方に勝るはずがないのだ。

「力は及ばないかもしれません。それでも、前に立つ覚悟はあります」

 覚悟。言葉にすれば、自分自身を律することのできる便利な言葉だ。
 いつだって、覚悟があると示せば戦えると思い込んでいる。実際の所、目に見えない覚悟など曖昧な幻想でしかない。

「覚悟とは何だ。……死ぬことか?」

 市村の目の色が変わった。それまで嘘偽りのない良く言えば純粋無垢な目を向けていたのに、今は何か得体のしれない存在に恐怖しているように見える。
 それこそ、土方の狙いであった。

「……違います」