想いと共に花と散る

 重い沈黙が部屋に満ちる。誰も何も言わず、ただ土方の判断を待っていた。

「……はぁ」

 ぎぃと音を立て、土方が深く身を預けた椅子が軋む。
 静かに落ちた溜息は、呆れでも蔑みでもない。

(……どうしてこうも、似たような奴ばかり集まんだ)

 自分の立場を理解していないわけではないのに、それでも前に出ようとする。
 守られてばかりでいるのは嫌だと、守ろうと血を見ようとする。
 血に塗れてもいい。傷付いてもいい。誰かを守れるのなら、自分は犠牲になってもいい。
 そんな魂胆が土方には手に取るように分かった。

「随分と人気者だね。土方君は」
「よしてくれ」

 はははと、到底軍議中だとは思えない大鳥の軽快な笑いが部屋に響く。
 完全に興が削がれてしまった。こんなに緩んだ空気で軍議を続けたとて、大した意見も得られなさそうである。
 期待に満ちた視線を市村から送られ、土方はふいっと顔を背けた。
 その先にいるのは榎本である。ニヤニヤとした嫌な笑顔を向けてきている。
 声に出すことはないが、「どうするんだ? 土方よぉ」なんて口パクで言ってきた。

(戦力が一人でも増えるのは、実際の所、助かる面が大きい。だが、こいつを戦場に連れて行けるかとなると……)

 答えは、この場で出すべきではない。
 もっと情報が必要だ。それと、経験値。
 
「土方さん」

 幼さが残る声変わりしたての声で呼ばれる。向けられる視線には、期待ともう一つの色があった。
 
(どうせ碌なこと言ってねぇんだろう)

 約束、契約、願望、協定、合意、盟約。
 かつて誠の旗の下に集まった仲間達が、同じ決意をその瞳に宿して刀を握っていた。
 目指す先は違えど、その目には確かな決意が宿っていたのだ。

「分ぁった……。後で俺の部屋に来い」
「……っ!」
「ここでは判断しかねる。どうするかは、この話し合いの後だ」

 決して採用すると言ったわけではない。ただ、判断を後回しにすると言っただけだ。
 だから、今の土方の言葉に期待する要素など一つもない。
 そのはずなのに、市村は目に見えて喜びをその華奢な身体で露わにした。
 大きさが合っていない背伸びをした羽織を揺らし、市村は頭を下げる。その羽織は、浅葱色をしていた。

「ありがとうございますっ!」

 つくづく忙しない奴だと、走り去っていく背中を見送りながら再び溜息が溢れる。
 そんな土方の口角が上がっていたことなど、気付いている者はほんの一握りだけであった。