想いと共に花と散る

 軍議の間は、張り詰めた空気に満ちていた。
 机の上に広げられた地図。駒のように置かれた小石。
 軍隊の最高責任者が机を囲む空間に、報告が次々と上がった。

「新政府軍、松前方面より進軍」
「砲台の弾薬、補充急務」

 淡々とした隊士達の低い声が交錯する。
 土方は腕を組んだまま、地図を見下ろしていた。その横顔に、迷いはない。

「前線の増員が必要だ」

 誰かが言った。
 部屋の中には一瞬の沈黙が満ちる。
 賛同する声も反対する声もない。皆、ただ静かに地図の上に視線を落とすだけ。
 その隙間に、一つの若い声が差し込んだ。

「──……志願いたします」

 声が聞こえてきたのは部屋の入口側からで、同時に皆の視線が集まった。
 そこにいたのは、この場には似つかわしくない少年。市村だった。
 齢十五であるその事実を忘れさせるほど、姿勢は真っ直ぐに正されている。

「伝令だけでは足りません。銃を扱えますし、剣術の心得もあります。前線で役に立てます」

 部屋の空気が僅かにざわついた。
 土方の目が、ゆっくりと市村へ向けられる。

「お前は小姓だ」

 低い声は、ただ事実を述べるだけだった。そこに情というものは一切としてない。
 端からそう言われることは予想していた市村は、決して土方を見つめたまま逃げないでいる。
 ここで引けば、次なる道はないと分かっているから。

「承知しております」

 迷いのない返答は、事前に準備していた答えではない。
 自分の立場を理解しているからこそ、ここに来た。

「ですが、今はそれだけでは足りません」

 言葉は穏やかだが、その目に宿る鋭さは生半可な覚悟ではない。

「僕は、ここにいるだけでは嫌です」

 その一言に、土方の目が僅かに細まる。
 また、あの目だ。相手の覚悟を測るような見透かす目。

「怖くはないのか」
「怖いです」

 市村は間髪入れずに答えた。
 ほんの一瞬だけ逸れた視線は、再び真っ直ぐと土方を捉える。
 着物の裾を翻し、市村は一歩前に躍り出た。

「ですが、それでも前に出たいと思いました」

 戦場に立った経験などない。心得ている剣術と言っても、道場で師範から習う手引書通りのものだ。
 それでも、刀を握ることができる身として、元服した一男子として。
 誰かに守られるのではなく、誰かを守る存在になりたかった。