想いと共に花と散る

 市村から視線を外し、竈の鍋の蓋を持ち上げる。
 中で溜め込まれていた湯気が一気に立ち昇り、雪の前髪をふわりと持ち上げた。
 さっきまで温かかったはずのその白さが、今は妙に遠い。

(心配しすぎ……)

 違う。心配しているのは、この城でも、戦でもない。
 人だ。人が減っていくことを心配している。否、恐れている。
 気づいたら、名前を呼ぶ相手がいなくなっていること。
 京でだって、そうだった。
 笑っていた人が、次の日にはいなくなる。自分の知らない所で、散っていく。

(また、同じことの繰り返しじゃん……。皆ばっかり先に行って、私だけここにいて)

 戦い、負ければ散る。勝てば先に進む。それが戦だと分かってはいる。
 分かっているのに、いつまで経っても慣れないでいた。
 人を失うことに、悲しみに、現実に。

「結城さん?」

 次は振り向くことができなかった。振り向くと、市村がまだそこに立っていると分かっている。
 変わらない顔。変わらない声。変わらない彼のままそこにいる。
 けれど、その裏にあるのは小姓としてだけではなく、一人の武士として戦う覚悟。
 雪はそのことに、はっきりと気づいてしまった。

「鉄くんは……怖くないの?」
「え?」
「もし、もっと戦が激しくなったら。前に出る人が増えたら」

 一瞬だけ、市村が息を呑んだ音が聞こえた。
 振り向く気にもなれなくて、竈の中に視線を落としたまま黙り込む。
 そんな雪の背中を見る市村の目が細くなった。迷いではない。決意を固める時の目だ。

「怖いですよ」

 あっさりと、そう言った。

「でも……ここで何もせずにいる方が、僕は嫌です」

 その言葉が、胸の奥に刺さる。
 何もせずにいる。その言葉は、誰に向けられたものでもないはずなのに。
 まるで、自分に向けられたようで。

「……私は」

 声が掠れた。
 戦えない。刀も、銃も持てない。小姓として傍にいることしかできない。
 けれど、傍にいるだけでは守れない。

「私は、小姓だもん。だから、前には出られないし……」

 言葉にした瞬間、その響きが思っていたよりも重く沈んだ。