想いと共に花と散る

 有名になんてならなくて良い、否、ならないでほしい。 
 雪だけが知っていて、雪の前だけで詠まれるような俳句のままでいい。

「真っ直ぐなぁ……褒めてんなら、まあいいか」

 真っ直ぐすぎるが故に、行き止まりで立ち止まってしまう。
 後ろを振り返らないから、別の道を見失ってしまう。
 そうやって、今までに何度も信じる道を見失って立ち止まってきたのだろう。置いてきたことを後悔するくらい、全てを自分の責任に変えて。

「あっ、そうだ」

 ふと思い立って、雪は土方の腕から飛び出した。 
 きょとんと首を傾げる土方をよそに、辺りを見渡してからある一点を指し示す。

「歳三さん。あそこの大きな木の枝が転がっている所に行って、こっちを向いて待っていてくれませんか?」
「は? なんでまた」
「いいから、いいからっ」
「うおっ、お、おい。分かった、行くから。押すなって」

 無理矢理土方の身体を押しやれば、渋々雪が指定した位置に向かって立ち止まる。
 土方が振り返ったのを確認し、雪は一歩海へと近づいた。
 沈みゆく太陽が空を焼き、頭の上には鮮やかな橙色が広がっている。

「今から良いもの見せますから、ちゃんと見ててくださいねー!」
「……おう」

 これだけ離れていても不安に感じないのは、二人の中に確かな信頼があるから。
 待っていてと言えば待っていてくれる。ちゃんと見ていてと言えば見ていてくれる。
 
(この時間なら、きっと……)

 波打ち際にしゃがみ込み、海水の中に両手を浸ける。さすがは函館の海、触れるだけで凍りそうだ。

「冷たー」

 両手で器の形を作り、その中に海水を貯めると立ち上がった。
 手の中にもう一つの海が夕焼け空を反射する。
 雪の一連の行動を傍観していた土方は、何がしたいのか分からず小首を傾げた。

「見てますかー?」
「見てる」
「いきますよー!」
「ああ」

 再び前を向き、一度だけ手の中に視線を落とす。たぷんと音を立てて小さな波が生まれた。
 器の形を保つ手を膝下まで下ろし、そして、思いっきり空に向かって振り上げた。

「……っ!」

 土方は目を見開いた。
 ただ手を振り上げただけ、そのはずなのに、ほんの一瞬だけ目にした光景が焼き付いて離れない。

「やった……っ」

 空に無数の小さな宝石が舞った。ように見えた。
 雪が集めた海水を空に向かって放ち、分散した雫が太陽の光を反射してキラキラと輝く。