想いと共に花と散る

 名前を呼ばれるというのは、こんなにも満たされるものなのか。
 
「これからは、一々許可取らなくて良い」
「許可? 何のですか?」
「名前を呼ぶ許可だよ」

 許可を取らないと呼べなかった名前が、願われて呼べるようになって。
 そしてこれからは、許可も願いもなく呼んでいいと言われる。
 
「……はい」

 これまでに出会ってきた人達は、形あるものを雪の残していった。
 目に見えて存在を感じられるもの。思い出をいつまでも薄れさせないもの。
 けれど、この時に土方から受けたものは、決して形に残るものではなく。
 それでいて、どんな宝石よりも輝く、膨大な金よりも価値のある贈り物だった。

「雪華っていうのはな……」

 不意に土方はそう言って、雪の顔を見下ろした。
 
「雪を顕微鏡で見た時に、結晶が花みてぇに見えたから名付けられたらしい。雪華図説なんてもんもあるんだと」

 人の感性というものには、時に想像以上に驚かされる。
 何気ない日常を生きていて、雪の結晶を花に例えるなどあるだろうか。
 雪を顕微鏡で見た人が結晶を花に例えたことで、雪華という名が生まれた。もしかしたら、その人がいなければ違う名前が与えられていたかもしれない。
 『雪華』と言う名前があったから、土方に『雪』という名前が与えられたのであって、違う名前であれば違う名前が与えられていた。
 そう考えると、やけに寂しく感じる。きっと、気の所為ではない。

「流石の俺でも、雪の結晶を花とは例えられねぇな」
「歳三さんの感性は真っ直ぐですもんね。見たものをそのまま言葉にする感じ」
「……それ、褒めてんのか貶してんのかどっちだ」
「褒め言葉ですって。歳三さんの俳句って、どれも真っ直ぐな言葉ばかりが並んでるから分かりやすい」


 松風や (まがき)に匂ふ 夕顔哉 

 梅の花  一輪咲いても  梅は梅 

 しれば迷ひ しらねば迷ふ 恋の道

 雪の中 折れずに立てる 花ひとつ


 飾った言葉など一つもない。ただ真っ直ぐに目に見えたものを、感じたものを、流れに乗せている。
 世の中で評価される俳句には遠く及ばないのかもしれない。所詮は遊びだと馬鹿にされてきたのかもしれない。
 けれど、何度だって口ずさみたくなって、何度だって聞いていたい。彼が作るのは、そんな俳句。