(……なんで、気付いちゃうかなぁ。しんどいだけなのに)
この想いは一方的なものなのだろうか。自分だけが抱いていて、ただ思わせぶりな態度を取られているだけだったりして。
「凍つる風 あなたの隣だけ あたたかい」
初めてだ、自分で一句詠むなど。
出来はどうだろうか。案外良い句が浮かんだと思うが。
そんな期待を胸に抱いて隣に立つ人の顔を見上げる。
「どうです?」
「……ああ、上出来じゃねぇか」
届いたのだろうか、この句に込めた想いは。
「あったけぇ、お前の隣は」
「……っ!」
ぎゅっと肩を抱き寄せられた。わざわざ繋いでいた手を離してまで、丸め込むように腕に包まれる。
いつも以上に土方の身体が近く、それでいて大きく感じた。自分の身体が小さいのもある。
こうも簡単に包みこまれてしまうと居た堪れない。人気のない場所を選んだとはいえ、何処で誰が見ているか分からないような状況だ。
いきなりのことで驚いてしまったし、一先ず離してもらわなくては。
「ひっ、土方さ───」
肩を抱く手に触れて呼ぼうとしたら、骨張った人差し指によって制される。
「歳三」
「えっ?」
「今だけは、名前で呼んでくれ」
あの鬼の副長と呼ばれていた男が、歓迎会で大勢の女性に囲まれても物怖じしなかった男が、執拗に近寄る女をたった一言で突き放してしまう男が。
縋り付くような目で、自分よりもずっと年下の男装をした少女に希うことがあるなんて。
きっと、あの人達が聞いたら笑ってしまうだろうな。
腹を抱えて、膝を叩いて、肩を抱き合って大笑い。そして、その後に───。
幸せそうに笑うんだ。
「歳三さん」
一度呼んだからか、自分でも驚くくらいすんなりと言えた。
頼んだ張本人の土方も目を見開いて驚いている。貴方が言ったんですよ。
「……ああ」
世界でこの二人だけだろう。名前を呼んでほしいと願い、呼んだことと呼ばれたことに喜ぶのは。
そして、この上ない幸せを互いに噛み締めるのは。
気が付くと、雪は寄り添うように土方に身体を寄せていた。離れないように、隙間無く。
「じゃあ、私も名前で呼んでください。雪華って」
思えば、もう男の子のフリをして生きる必要なんて何処にもなかった。
新撰組が解散したあの日、局長である近藤が処刑されたあの日、新撰組と共に雪という存在は死んでいたはずなのだ。
けれど、雪として生きることが板についていたわけで。一応は今も土方の小姓なわけで。
いつからか、雪で生きることが当たり前になっていた。本当の自分よりも雪という存在が大きくなっていたのだ。
「───……雪華」
でも、もしも許されるのなら。
土方がありのままの自分で雪の前にいるように、雪もまたありのままの自分でいたかった。



