「できました」
終わりを告げただけなのに、その声は消え入りそうなほどに小さかった。
雪は鋏を持ったまま目を伏せる。足元に散らばった黒髪を見て、静かに目を閉じた。
「……落ち着かねぇ」
「ずっとあれだけ長い髪で過ごしていたんですもん。いきなりは慣れないですって」
「それもそうか」
何気ない会話。いつからか、土方との間にあった壁が無くなって、くだらないことでも笑えるようになった。
それなのに、近頃の土方は、何処か遠くに行ってしまいそうな危うさを見せることがある。
洋装姿を見た時も、髪を切っている間も、目の前にいるはずなのに届かない気がして。
「雪、これからどうする?」
「えっ?」
髪が短くなって剥き出しになった項が気になるのか、手を当てながら振り返った土方と目が合った。
先程から何かを話していたようだが、雪の耳にはほとんど入ってきていない。
突然目が合ったことで、雪は小首を傾げてぽかんと口を開けた。
そんな様子を見て土方は呆れたように息を吐く。
「行くんだろ、江戸」
「あっ」
「明日にでも出ねぇと、向こうに着くのが遅れる。今晩中に用意しとけ」
「は、はいっ!」
京から江戸へ行くための交通手段など、この時代のものは大して発達していない。
電車や新幹線、車なんてあるはずもない中で、徒歩と船を利用するしか無いのだ。
けれど、元々雪が江戸に行くつもりだったのは近藤の無罪を主張するためであって。
彼が斬首刑に処された今、江戸に行く理由など無いはずなのだが。
自分で返事をしておいて分からなくなった雪を見て、土方は意地の悪い笑みを浮かべた。
「会いに行ってやれ」
「……そうですね」
否、理由ならある。江戸に行く理由は、他にあるのだ。
江戸で待ってくれている人が、会いに来てくれると信じて待っている人がいる。
たとえ一緒には行けなかったとしても、会いに行くくらいはできるはずだ。
「土方さんは、私が江戸に行っている間どうするんですか?」
何気なく聞いたつもりだった。
また生意気だと言って笑って、未来を語ってくれるのだと思っていた。
「──……さあな」
未来を教えてはくれなかった。
彼が浮かべた笑顔が引き攣っていて、ぎこちなくて、無理矢理作られていたのに。
疲れているだけなのだと、気づかないふりをしてしまった。
気づかない方がいいのだと、思ってしまった。



