想いと共に花と散る

 激しい水音に紛れて何人かの足音が、庭の真ん中で洗濯に没頭する雪の元に近づく。

「───……雪!」

 庭全体に響き渡らんばかりの大声が聞こえ、雪はびくりと身体を震わせる。
 そのすぐ後には、激しい足音共に誰かが駆け寄ってきて視界が陰った。
 顔を上げれば、今にも泣き出さんばかりに表情を歪ませる藤堂と呆気にとられた様子の斎藤がいる。

「へ、平助くんと斎藤さん……」
「お前っ……! どれだけ心配したと思ってんだよ!」
「起きて早々洗濯とは、普段であれば感心する場面だが今は良くないと思う」
「え、ええ?」

 戸惑う雪をよそに、藤堂は目の前に屈むと雪の方を肩を掴んでグラグラと前後に揺らす。
 
「一ヶ月、一ヶ月だ! 俺等ずっとお前が起きるまで待ってたんだよ」
「い、一ヶ月……っ!?」

 長い眠りだったとは思っていたが、まさかそんなに眠っていたとは想像していなかった。
 藤堂は怒りと安心に胸中がぐちゃぐちゃになっているようで、笑顔を見せたり微かに涙を見せたりと忙しない。
 その反面、傍に立って見下ろす斎藤の冷静な無表情は混沌としたこの状況では何とも異質である。

「あ、あの……小夜は、どうなりましたか? 怪我をしたり、してないですか?」

 あの夜、曖昧な意識ではあったものの橋の下には土方と沖田と共にこの二人もいた。 
 現在、雪が手にしている斎藤の首巻きがその証拠である。目の前にいる斎藤の首には何も巻かれていない。
 問われた二人は、一瞬呆気に取られた様子を見せた後、互いに顔を見合わせた。

「小夜なら、無事だよ」
「本当!? 良かった……」
「……お前さ、なんでそんなに優しくするわけ? 俺だって小夜とはそれなりに関わってきたけど、俺だったら許せねえ。端から騙すために呼び出すとかさ」

 藤堂の言い分は最もだ。たとえ知り合いだとしても、自分のことを騙していたとなれば許せないという気持ちは当たり前に抱く。
 
「許したわけじゃないよ。私だって、腹立つし本当なら信じたくない。でも、小夜の顔を見たら怒る気にもなれなかったんだ」

 首元に手を伸ばし、小夜とお揃いのネックレスに触れる。このネックレスを今も着けていることが、雪の決断であった。
 許したわけでも怒っていないわけでもない。一度失った信頼は、そう簡単に取り戻せるものでもないと分かっている。

「小夜は、私にとって初めてできた友達だから」

 その言葉に込められた想いがどれだけの歳月を経て発されたのか、藤堂と斎藤には届かない。
 ただ、その言葉とネックレスが雪が小夜を友達であると思い続ける答えだったのだ。