想いと共に花と散る

 しばらく待つと、二人の前に湯気が立ち上るかけ蕎麦が運ばれてくる。
 長らく空腹を訴えていた胃は限界を迎え、雪はすぐさま箸を手に取った。

『いただきます』

 同時に手を合わせ、二人はかけ蕎麦を頬張った。
 出汁だけの地味な一品だが、その温かさと優しさが身に沁みる。
 頬を紅潮させながら頬張る雪を見て小夜が笑い、勢いよく啜って噎せた小夜を見て雪は笑った。

「美味かったねぇ」
「蕎麦なんて初めて食べたよ。美味しかったなぁ」
「ええ! 蕎麦食ったことないん? 珍しい子やねぇ、雪って」
「そ、そうかな……珍しい、かも?」

 雪が発する何気ない一言は、時にこの時代には似つかわしくないものである時がある。
 一瞬不審げな目を向ける小夜だったが、すぐに普段の調子を繕う。

「ええこと思いついた。雪って全然京の訛りがあらへんから、ここらのことあんまり知らんやろ? ちょうど、今日は町で市場があるし、案内するわ!」
「本当!? 嬉しい、ありがとう小夜」

 二人の少女は手を繋ぎ、刻一刻と日が落ちていることなど気にせず走り出す。
 しばらく人の波に抗いながら町の中を進めば、彼女の言う通り町の中心では大きな市場が開かれていた。
 日が落ちてきたことで、辺りに吊るされた提灯の明かりが映えている。
 雪は市場の入口に立ち止まると、思わず見上げてしまった。

「わあぁ……」
「ほーら、雪! こっちこっち!」
「あ、待ってよ小夜!」

 何処を見ても人、人、人の群れ。誰もが左右に立ち並ぶ露店に目を奪われる。
 雪と小夜も一歩進めば傍の露店に目を奪われ、立ち止まっては歩き立ち止まっては歩くを繰り返した。
 
「ねえ、小夜」
「何ー?」

 ふと立ち寄った露店の前でしゃがみ込み、並べられた品物を見ていた雪は傍らに立っている小夜を見上げた。
 つられて小夜もその場にしゃがむと、目の前の品物に目を向ける。
 雪は、すぐ傍に置かれていた浅葱色の宝石がはめ込まれた首飾りを手に取った。

「これ、綺麗じゃない?」
「わ、ホンマや。めっちゃ綺麗!」
「お嬢さん等、ええもんに目付けはりましたなぁ」

 二人で首飾りを見て阿鼻叫喚していると、露店の店主がそんな二人を見て微笑む。
 意識が首飾りからその店主へと向けられた。

「それは、南蛮渡りの代物でなぁ。“ねっくれす”っちゅーもんらしいんや。あんのはその二つの現品限り」
「あるだけしかないんかぁ……」

 店主の言葉に小夜が分かりやすく肩を落とす。
 南蛮、つまり外国から入ってきた商品のようで、店主は口の前に人差し指を当てながら説明した。
 この時代、攘夷思想が強く、あまり西洋の代物を身につけるのはよろしくない。
 それでも二人は、ネックレスが持ち得る素の輝きにすでに目を奪われている。