ありがとう。大嫌い。

吐き気が強くなる事に嫌な汗も吹き出てくる。



私が嘔吐いている間も、四宮せんせーはずっと背中をさすってくれていた。



「⋯⋯落ち着いたかい?」

「うん⋯⋯ありがと、せんせー」



数分後。

強い幻覚症状と吐き気は収まり、中庭のベンチに座ってぼんやりと空を見上げていた。



「そろそろ迎えが来るよ」

「ほんと、精神病患者を担当する人達って大変だねー。あ、私だから大変なのかなー」



不定期に起こる発作が収まれば、次に始まるのは自虐。

今ではだいぶ収まった方だけど、初めの頃は四宮せんせーに「私はなんで生きてるの?」とか聞いちゃって。



挙句の果てには、死にたいとか言っちゃって。



発作が収まる度に、「四宮せんせーに迷惑はかけない」って誓うのになぁ。



「医者は患者を救うことが仕事。助けることもだし、振り回されることも仕事の内だ」



駄目だよ、四宮せんせー。


自分の将来に不安を感じてる患者にそんなことを言っちゃ。



患者にとってね、お医者さんってのは神様みたいなものなの。

ましてや、精神病患者になんてもっと駄目。



何かに縋り付かないと生きられない私のような人間に、そんな優しい言葉を掛けちゃ駄目なんだよ。



「ねえ、しのみやせんせー」



今日は天気がいいね。

さっきの発作なんて無かったみたいに気分がいい。



「ママとパパはいつくるの?」



あれ、四宮せんせー?

なんでそんなに泣きそうな顔をしてるの?

せっかくのかっこいい顔が台無しだよ。



「⋯⋯もう部屋に戻ろう。遊び疲れたんじゃないかい、“さっちゃん”」

「うん!」


大きな四宮せんせーの手を握ってベンチから立ち上がる。


いつの間にか、空は橙色に染まり始めていた。