未完成のワンフレーズ


すると看護師さんは、少し驚いたように目を丸くした。




「へぇ……」

「何?」

「ううん。李仁君、誰かにギターを教えるなんて珍しいなと思って」

「そうなの?」

「うん」




少しだけ考えるようにしてから、彼女は笑った。




「李仁君、あまり自分から人と関わろうとしないから」

「……へえ」




なんだか意外かも。

あいつ、あんなに偉そうなのに。



まあ、孤高の存在って言えばイメージは合うか。




「じゃあ、李仁君が戻ってきたら伝えておくね」

「何を?」

「紗綾ちゃんが来てたって」

「……名前、知ってるの?」

「もちろん。ここで働いてるからね」




そう言って、彼女は胸元の名札を指差した。

そこには――。


『看護師 水野』


と書かれていた。




「水野さん?」

「そう。水野」

「じゃあ、みっちゃん!」

「みっちゃん?」

「私、仲良くしたい看護師さんにはあだ名を付けることにしてるの。あっ、嫌だったらやめるけど」

「ううん。嫌じゃない。みっちゃんでいいよ」

「わーい。あははっ。それじゃあ、よろしくね。みっちゃん!」

「こちらこそ、よろしくね。紗綾ちゃん」




そう言って笑った彼女の笑顔が、何故か妙に印象に残った。




「……じゃあ、待ってるね」

「うん。でも、今日は長くなるかもしれないよ?」

「大丈夫!」



みっちゃんと別れた私は、病室に入ってベッド脇のパイプ椅子に座る。



李仁が検査から戻ってくるまで、ギターの練習でもしていよう。

そう思って、すぐ傍にあるケースを開いた。