未完成のワンフレーズ




思わずギターを抱えたまま立ち上がる。


ストラップがないから本体が摺り落ちてしまうけど、膝を上げて何とかキャッチ。




「もう一回やってやる!」

「待て。立ったまま弾くな」



ベッドの上を移動して李仁は私に向かって手を伸ばす。

その手から逃げるように身体を捻って、私はギターを抱えた。


今じゃ、よっぽど私のほうが使いこなしてるって言っても過言じゃない。




「なんで?」

「まだ安定してねぇだろ」

「大丈夫だって!」

「お前は――」



李仁が呆れたように笑った、その瞬間だった。




「……っ」




ふらり、と。

李仁の華奢な身体が少しだけ傾いた。




「李仁?」



すぐにベッドの端へ手をついたから、倒れることはなかったけれど、

俯くその顔は異様に青白い。微かに冷や汗も浮かんでいる。


私はギターをベッド脇の棚に立て掛けて、李仁の目の前にしゃがみ込んだ。




「……大丈夫?」

「ああ」

「今、ふらついたよね?」

「ちょっと目眩がしただけ」

「ほんと?」

「ほんと」




そう言って笑う。


いつもの李仁だ。いつもの、生意気でムカつく顔。

だから私は、それ以上気にしなかった。




「じゃあ、もう一回やる!」

「だから座れって」

「先生が教え方下手だから!」

「お前が生徒として落ち着きなさすぎんだよ」

「なんですって!?」




また口喧嘩が始まる。

でも――さっき一瞬だけ見えた、李仁の顔色が。

いつもより少しだけ白かったことを、私は後になって思い出すことになる。



この頃の私はまだ知らなかった。


李仁の身体の中で、
私には見えないところで、

少しずつ何かが変わっていたことを。