未完成のワンフレーズ




あいつと出会ってから、一月経った。


いつからかあいつの病室に通うことが当たり前になっていて、夜に徘徊することも減った。

未だに私があいつの病室に通ってばかりで、 私の病室に来ようとはしないけど。




「いやいやいや! 痛すぎ! 無理できない!」



そして何故か、私は李仁の病室の一角でアコースティックギターを構えていた。


始まりは一昨日のこと。



「私がギターを弾いて、あんたが歌ったらいいんじゃない?」



そんな失言がきっかけだった。


それからというもの、下手なギター講師の李仁先生からギターを教わっているのだった。



「そこ、指寝かさない」

「いだだだだだ!」

「うるせぇ」




ギターというものは主にコードを押さえて奏でる楽器らしく、 アコースティックギターは他のギターよりも弦が硬いのだと。




「⋯⋯こんだけ知識あんのに、下手なんだね」

「てめぇ、ぶん殴るぞ」

「あーーー! ごめん、ごめん! 拳握らないでぇ!」

「チッ!!!!」



兄弟揃って鬼だ。


カウンセリングの鬼と、 ギター講師の鬼。



「―――あっ!」




あれやこれや口論している最中、病室中に儚い音色が木霊した。




「ね、ねぇ⋯⋯今の鳴った、鳴ったよねぇ!?」

「丸二日でFコードを鳴らした、だと⋯⋯っ?」




ギターを始めたこの二日間、AコードやCコードなどはすぐに鳴らせたけど、 どうしても最難関のFコードだけ鳴らせずにいた。



けれど、今この瞬間、 ギターを挫折する理由第一位のFコードを鳴らしてみせたのだ。



「やったぁぁぁぁ!」

「……マジか……すげぇな」

「でしょ!?」

「普通、そんな早く鳴らねぇよ」

「えへへ」

「調子乗んな。たまたまだ」

「なんだとぉ!」