未完成のワンフレーズ



確かに自分が見ている風景なのに、映像を見ているように見えて。


主人公目線の映画をスクリーン越しに見ている感覚に近い。




「どんな時?」

「夜」

「他には?」

「……李仁といる時?」

「どういう意味だ?」

「なんか……」




問われて考えてみるけれど、上手く説明する言葉が思いつかない。




「私じゃないみたいっていうか」

「自分を外から見ているような感覚?」

「……それに近いかも」

「そうか」



四宮せんせーは何度か頷くと、カルテにスラスラと記録を取っていく。


この大量の紙の束は、この二年間で私がカウンセリング中に答えた記録達。


きっと、最近に近づくにつれてその内容は薄れていっている。



「それも解離の症状の一つとして考えられる」

「ふーん」

「『ふーん』じゃない」

「だって、よく分かんないし」



自分の病気のこととは言え、やっぱり目に見えないものを信じるのは難しい。

四宮せんせーだってその事は理解してくれているはず。



「分からなくてもいい。ただ、今後強くなったり、記憶が抜ける時間が長くなったりしたら、必ず俺に話してくれ」

「……分かった」

「約束な」

「はいはい」

「返事が軽い」

「ちゃんと覚えてるから大丈夫」



そう言って、いつものように脳天気な笑顔を浮かべた。

でも――その時の私は知らなかった。




この先、私が「覚えていたい」と願うほど、

大切な記憶から少しずつ、私の手の中から零れていくことを。