「――じゃあ、今日はここまでにしようか」
「えー、もう?」
「もう一時間近く話してるぞ」
「そんなに?」
「時計見てみろ」
言われて壁の時計を見る。
確かに、カウンセリングを始めてからかなり時間が経っていた。
「……早」
「そういうものだ」
四宮せんせーはカルテに何かを書き込みながら、ちらりと私を見る。
「最近、夜はどうだ?」
「いつも通り」
「いつも通りって?」
カウンセリングルームの窓の外にも鉄柵が設置されている。
過去にカウンセリング中にフラッシュバックが起きて、正気を失って飛び降りようとした輩がいたらしい。
始めの頃は「そんなわけ」って私も思ってたけど、
近頃カウンセリングを受ける度に笑い事で済ませられなくなっている。
滅多に無いけど、カウンセリング中にフラッシュバックが起きるようになっていたから。
「……夜になると外に出たくなる」
「この前みたいに?」
「……たぶん」
「たぶん?」
「覚えてないところもあるから」
そう答えると、四宮先生のペンが止まった。
「どのくらい覚えてない?」
「んー……」
私は首を傾げて、一番新しい夜の徘徊中のことを思い返す。
覚えているのは、中庭から美容院の敷地から抜け出し、
適当に歩いていると歩道橋に辿り着いた辺りだ。
「歩道橋に行ったことは覚えてる」
「うん」
「李仁に会ったことも覚えてる」
「李仁?」
「……あ」
しまった。
せんせーの前でこの名前は出さない方が良かった。
まあ、後悔しても後の祭りだけど。



