「それで、ギター下手だって馬鹿にしたら、めちゃくちゃ上手い歌を聞かされたってか」
お年寄りばかりが集まる休憩スペースの一角にて。
丸いテーブルを挟んで向かいに座る看護師のタケちゃんこと武智先生は、缶コーヒーを啜って意地悪く笑った。
「いるんだよなぁ。自分はできねぇくせに一丁前に相手を馬鹿にする奴」
「何その言い方!?」
「ん? 事実だろ」
「きいぃぃぃぃ!! それ言うなあああ!!」
タケちゃんと出会ったのは、私がこの総合病院に入院し始めてすぐの事だった。
担当カウンセラーである四宮せんせーとこの席で色々話していた時、
喉が乾いた私は自動販売機に飲み物を買いに行こうとした。
その時、すぐ後ろを武智先生が歩いていることを知らず、
私は思いっきり椅子を引いてしまい。
運悪く、武智先生の足を椅子で踏んでしまったのだ。
それ以来、タケちゃんはことある事に私の元にやって来ては、
あの時の事を掘り返して揶揄ってくるのだ。
ちなみに、
タケちゃん呼びは四宮せんせー譲り。
「でもさー、なんか変わってたんだよねー」
「何が」
「普通、私と同じくらいの男の子が、夜中のそれも人気の少ない歩道橋の上でギターなんて弾いてる?」
「ギターを弾いているかは置いておいて、夜中に徘徊するガキは目の前にいるけど」
空になった缶で軽く額を小突かれる。
これにはぐうの音も出ず、私は小さく「⋯すみません」ということしか出来なかった。
「と、まあ。俺にも気になることはある」
「え? 何何?」
「その、お前が歩道橋で会って、さっき受付で見たってガキ⋯⋯昨日の今日で入院してんだからな」
タケちゃんが考えていることは、私でも分かる。
今日入院した患者が、あんな夜中に歩道橋でギターを弾いているなんておかしな話だ。



