ありがとう。大嫌い。



声が聞こえる方向に誘われるまま向かうと、

曲がり角を曲がった先の受付で、

四十代の女性と、幼い男の子が看護婦と何やら話していた。



壁に背をつけて耳を澄ませる。




「⋯⋯から⋯⋯⋯だけ、⋯⋯が、ちゃんと支えますから」



途切れ途切れの看護婦の声が聞こえた。


何を言っているのかは分からない。




「やばっ」



もう少し近づこうとしたその時、


それまで無言で看護婦を見ていた男の子が私の方を見た。
気がした。


咄嗟に隠れたから顔は見えなかったけれど。


何故か、私はその少年を知っている気がした。




(あの子⋯⋯どっかで⋯⋯)



「何してるんだ」

「わぎゃああ!?」



ガッチリと肩を掴まれて振り返れば、
そこには蔑みの視線を向ける四宮せんせーがいる。




「せ、せせせんせー? どーかしたぁ?」

「さっき言ったばかりだが。もう病室を抜け出すなんてな」



笑顔を浮かべているはずなのに、その目は全く笑っていない。


私、遠藤紗綾。


今日が命日らしいです。



「今朝はまだ猶予をやろうと思っていたが、もう我慢ならない」

「ちょっ! な、何する気!?」

「病室のベッドに縛り付けて抜け出せないようにする」

「縛る!? ヤダヤダ! ぜっったいヤダ!」



病室を抜け出せなくなるどころか。


自由に起き上がれなくなるなんて有り得ない!


私は無理矢理四宮せんせーの手を振り払って、

全速力でその場から逃げ出す。



「こら! 待ちなさい!」


そしてすかさず四宮せんせーも私を追いかけ始める。


四宮せんせーの叫び声が病院中に響き渡っていたことも、

あの男の子が私のことを見ていたのも、

全部私は知らずに笑っていた。